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(第三者視点)



笑顔を保ったまま、役員専用席へと歩いていく高貴。不自然な笑顔に、しかし周りは気付くことなく。唯一そんな高貴をみて不適に笑った峻のところへいき、どかりと座り込む。
まるい茶目を和ませることなく、貼り付けたような笑顔を浮かべる高貴。

「まさか峰が他人に恋情を囁く瞬間を見ることが出来るなんてね」
「なんのことだ?」

とぼけてみせる高貴。そんな高貴をみて、くつくつと喉奥で笑った峻はスープをスプーンですくいながら、笑顔を貼り付けたままの高貴を見やった。

「バレないとでも? お前は分かり難いように見えて、その実行動は真っ直ぐだからね。とてもわかりやすい」
「、…ふうん? 如月にはバレルとは思ったが…怒るかと想像してたんだけどな」
「怒る? どうして、わたしが?」
「陸のこと気に入ってるだろう? 知り合って二日三日の男が軽々しく告白なんてしたら怒りそうじゃないか、お前」
「失礼だね。陸のことは気に入ってるけど、それとこれとは別だよ。人の恋路の邪魔なんて、美しくないだろう?」

ふふ、と笑う。女王然としたそれに苦笑を返したところでタイミングよく高貴の昼食が配膳された。黙々と食事をとる二人。ふたつめのパンに手をつけたところで、不意に目を伏せながら高貴が呟く。

「…陸、困ってたな」
「そりゃあ困るだろうね。知り合ったばっかりのごっつい男に公衆の面前で告白されたんだ。…まあ、その後のお前の言葉を鵜呑みにして、みんな恋情のそれだとは思ってないようだけどね。」
陸には、ちゃんと伝えたんでしょう? 顔を近づけたあの一瞬、あのときに。

さらりと言い放たれた言葉に、パンを千切っていた手を止める高貴。自信満々に笑う峻をみて、溜息と共に苦笑を浮かべる。

そのまま高貴は肩を竦めると、パンから手を離して力を抜き、背凭れに体重を預けた。

「さすが美化委員長サマだな。そこまでバレてるとは」
「陸の動揺した顔色を見れば大体はわかる。…弟の桂木稜も、麻埼も気付いただろうね。告白されたところまで察したかはわからないけど、とにかくお前になにか言われたことくらいは」
「そんな動揺してたか、陸」
「気付かないくらいお前も動揺してたみだいだけどね」
「あー…だからさっきから風紀委員長…麻埼の目が痛いのか」

苦笑。横目で階下の麻埼を見やる。机の上になついている陸と、その傍らで陸の背中を撫でる稜。陸の頭を撫でつつ、こちらを見つめている麻埼。睨んでこそいないが、強い視線がつきささる。

「麻埼は陸の箱庭の番人みたいなものだからね。」
「幼馴染、…っていってたか?」
「そう、幼馴染。陸のことが大事で仕方ないんでしょ。」

高貴と同じように譲を横目で眺めて、微笑する。

「陸を守ってる、か」
「…周囲の感情に陸が振り回されないように、ね。」

譲から目線をずらして、陸をみる。

「でも、」

ひそやかに落とされた声色。静かな峻のそれに、高貴が耳を傾ける。

「そろそろ、あの狭い世界から出ても良い頃合だろうけどね」
「…それは、如月の主観だろう?」
「告白したお前がそれを言う? いま陸の狭い世界を揺らがせてる張本人が。」

峻の言葉にまるい茶目を伏せた高貴をみて、溜息をおとす。目にかかる飴色の前髪を横に払って、女王のように高慢に浮かべていた笑みをかき消した。髪と同色の飴色の瞳を緩ませて、わらう。

「わたしが陸とこの学園にいられるうちには、陸から話しかけてもらえるようになりたいからね」


二人の委員長は、稜と譲に両手を握られて、そのまま食堂を去っていく陸の後姿を見送った。柔らかい、どこか物悲しい笑みと共に。





2010/11/22


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