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(第三者視点)



大きな声で宣言された告白。

シチュエーションなんてあったもんじゃない。甘い空気からは掛け離れているし、快活に浮かべられた高貴の笑みは寧ろ恋愛のそれよりもペットなどに対する「スキ」の気持ちのようにみえた。
ざわりと食堂の空気が揺れる。スキだと宣言した高貴は周りを気にせず笑っていて、宣言された陸は驚きに硬直している。

うろたえる陸に、大股で近付いていく高貴。
陸のすぐ目の前に立った高貴はにかっ、と笑みを浮かべると陸の手をとり、ぐいと引っ張って椅子から立たせる。そのままスルリと腰に腕をまわして陸を引き寄せると、陸の腕を掴んでいた手を離し、頭を撫で回し始めた。


「やっぱり可愛いな! 陸みたいな犬を実家で飼ってるんだよな、実は」
「…い、ぬ…?」
「? どうかしたのか、陸?」
「……い、…ぬ…。」

高貴の言葉に、ざわついていた食堂が再び静かになる。硬直からとけた陸が、ぱちぱちと目を瞬かせ、ほっと息を吐いた。己の身を包む他人の体温にぞわぞわと寒気に襲われるが、それよりも安堵のほうが強くて気にならない。


犬。犬かあ。やっぱりペットとかそういう? 動物愛な感じだったのか。

ざわざわ。口々に呟く生徒達の囁きを聞き取って、胸をなでおろす。スキだといわれて、正直に言うと困惑した。…恋情のそれでなくてよかった、と。


安堵の息を再び吐く陸の耳元に、高貴が笑顔のまま顔を寄せた。


「…なんてな…。愛してるのはホントだ、陸」

陸の耳に直接吹き込むようにして囁く。周りには聞こえない声量。しかし陸には、しっかりと聞き取れるそれ。

びくりと肩を揺らして陸が目を瞠る。そんな陸の表情に苦笑をこぼして、高貴はまあるい瞳をゆるりとなごませた。

「返事はいい。…ただ、知っていて欲しくなっただけだからな」

小さい声。呆然とする陸に、悪戯な笑みを浮かべて腰に回していた腕を離す。そのまま何もいわず一歩後ろに下がって、高貴は再び快活な笑みを顔中に浮かべた。

「それじゃあ俺は食事をするかな。またな、陸っ!」


突然やってきて、台風のように陸の内心を掻き乱して。しかし何事もなかったかのように去っていく高貴。……譲たちに声一つかけず、陸しか見えていなかったあたり高貴にも余裕が無かったのがみてとれるが。



愛を囁かれた耳を擦る。ぞわぞわとした何かが駆け巡って、陸は困惑したように立ち尽くす。へたりと椅子に座り込んで、テーブルに頭を預けて項垂れた。



すき、すき、すき。…あいしてる。

知らない感情。家族愛とも友愛とも違うそれに、ただ途方に暮れる。折角仲良く、なれたのに。


今までと違う形に変質しようとする関係に、訳も無く泣きそうになった。





2010/11/19/


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