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(第三者視点)



お腹を押さえてぐてりと食堂のテーブルに突っ伏す陸。目を閉じてだらんと力を抜いている姿をみて、稜と海斗が慌てたように背中を擦ったり謝ったりしている。傍らでは譲が苦笑を零し、灯は心配そうな顔をしつつ口元がにやけている。

「大丈夫、陸? ごめんね、無理させちゃった…!」
「すいません桂木先輩っ、おれが変なこと提案したばっかりに…っ」
「、だい、…じょう、ぶ…。…ぅ、…」
「わー! 陸、吐く!? 吐いちゃう…っ!?」

わあわあと驚く二人に、陸が力なく微笑む。灯の「病弱儚げ大型わんこも萌える」という呟きは二人とも意図してスルーである。譲は含み笑い、陸は何を言ってるかわからないためスルー。


「…おや」

わあわあと慌てる二人、見守る二人、陸を囲う四人のところへ偶然通りかかった人物が小さく声をあげる。普段は役員席で食べてるか、それとも食堂にいないかどっちかの譲が居たためである。

「麻埼、珍しいね。」

ニコリと笑って言葉を投げかける。視線を向ければ、美しい飴色の髪を持つ美化委員長の如月峻が立っていた。

「そっちのテーブルにへたり込んでるのは、……」

にこりと笑みを見せて近付いてきた峻は、机に突っ伏す人物をみて少し眉を顰める。しかし次の瞬間には、顔の見えないその生徒の、何かに気付いたのか飴色の瞳が驚愕に見開かれた。


「…峻、せんぱ、い…?」
「陸、なのかい?」

聞き覚えのある声に、突っ伏していた顔を持ち上げる陸。青い瞳を正面から見て、峻が目を瞠ったまま呟くように言葉を零す。動揺に溢れた声色。こくりと頷いた陸に、峻は気を落ち着かせるようにゆっくりと目を閉じる。


…少ししてから再び飴色のそれをひらいて、ふわりと笑った。

「前髪を切ったんだね。こっちの方がすっきりしていい」

そう言って陸の額を撫でる。薄くのこる傷に指を這わせて、青い瞳が見上げてくるのに対して気品のある笑みを返した。

「それにしても顔色が悪い…。なにかあったの? 陸」
「…ちょ、…と」
「うん?」
「…た、べ…すぎ、た…」
「…うん?」
「だ、け…で…す」
「………そう。」

ニコリと笑ったまま、陸の鼻を軽く指でデコピンする。いきなりのことに怯んだ陸に、笑ったままの峻がさらに鼻をつまんだ。

「いつもはいない食堂で青い顔してるから何かと思えば、食べすぎ?」
なにがあったのか心配したじゃない。

にこり。

「む、う…、」

鼻をつままれたまま、陸が呻く。それに少しだけ笑って、指を離した峻はすこしだけ赤くなった鼻の頭を指先で擽る。

「額の傷は痕にならなそうでよかった。今度久しぶりに、お茶会を開くからおいでね」
「おちゃ、かい」
「陸がすきだといってたクッキーも焼いてきてあげる。」

目を輝かせて頷いた陸に、峻は嬉しそうな笑みを返す。陸の頭を一撫でしてから、体を譲たちに向けた。成り行きを眺めていた稜と海斗、灯の三人は、にこりと笑う峻をみて背筋をただす。なんか逆らっちゃいけないオーラが出ている気がする。譲はというと、一人余裕な態度で陸の赤くなった鼻を擦っていた。委員長会議で顔を合わせているだけあって、なんだか変な貫禄がある。


「わたしは美化委員長の如月峻。お前は陸の弟の、…稜だったね。」
「はい、えっと…こ、こんにちは」
「うん、挨拶は大事だ。そこの二人の名前は?」
「りょ、稜と同じクラスの、橘海斗です。こんにちは。」「海斗と同じ寮部屋で、二人の隣のクラスの春風灯…です。はじめまして、如月委員長」

よく分からない威圧感から、背筋を伸ばしたままの二人がぎくしゃくと挨拶をする。

そんな二人をみて、峻がにこりと満足そうに微笑んだ。


親衛隊の生徒達みたいに、人をみて叫ばない。それにどこぞの宇宙人みたいに会話が通じないわけでもない。…ことが嬉しかったらしい。

うんうんと一人頷いて、よし、と小さく呟いて再び陸のほうを向く。

「周りの子達をみるに、大丈夫そうだね。なにかあったらわたしに言いにおいでね、陸」

そう言って頭を撫でる。それから峻は譲に含み笑いをむけて、食事をとるために役員席へと去っていた。

笑顔の威圧から介抱されて、三人がほっと息を吐く。
陸は顔は青いものの、峻のいっていたクッキーが楽しみらしい。瞳を輝かせていて。
譲は峻の後姿を見送ったあと、陸の頭を思いっきりぐしゃぐしゃと撫でた。

…と、そんな五人のところに。


「おお、陸! やっと見つけた!」

溌剌とした明るい声と共に、体育委員長の峰高貴がやってきた。



まあるい目を笑みの形に崩して、男らしい大きな口で爆弾を投下。


「陸、すきだ!」

……食堂中に響くほどの声に、ざわついていた食堂がシンと静まりかえる。


突然のことに、陸はぽかんと目をまるくさせた。





2010/11/17/


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