09
(とある文化委員視点)



いま、文化委員室は酷く重い空気に包まれている。その原因は教壇席に座る文化委員長の木野尊先輩にある。もっと詳しく言えば、木野先輩の不機嫌の原因は会議開始予定時刻になっても現れない、生徒会会計の藤代茜さまにあったりする。
予定開始時刻は四時、ちなみに今現在時計の針は四時半を指していたりするワケだが。

普段は余裕ある木野先輩の表情は険しく、苛々とした様子で机を指でコツコツ叩いている。涼やかな目元は冴え渡りすぎて見るモノ全てを凍らせる。きりりと整った顔立ちの先輩だからこそ、不機嫌なその様子はすごく迫力があった。つまりこわい。ぶっちゃけ逃げ出したい。恐らくこの場にいる文化委員の心はひとつだろう、早く会計さま来て・・・!今日の会議、会計が来ないと話にならないわけである。

やべえよ、どうするよ、誰か生徒会室行って呼んでくる? ざわざわと空気が乱れる中、文化委員室唯一の扉からノック音がした。

もしかして会計!? 来るのおそっ! でも来てくれてありがとう!! とか思いつつ、扉に一番近かった俺が立ち上がって扉を開きに行く。しかし木野先輩の「入れ、」という一言に、こちらが開ける前に扉が開いてしまった。
え、なんで? 他の委員は言わずもがな、入室を促した木野先輩までもがポカンとしている。
何故かって言うと、無駄にプライドの高い生徒会役員は、あまり自分で扉を開けることをしないからだ。というか開ける前に他の生徒が率先して開くのだ。彼らにとって、扉を開けて招かれるのは当然のことで、だからこそ他の生徒が居る場で自ら扉を開く役員は無に等しい。そういえばノックもしてた? あれ? 扉の向こうから尊大に投げかけられる、「来てやったぞ扉を開け」コールはどこへ?

ガチャリと開かれた扉は、軋み一つたてずすべらかに開く。もしかして生徒会じゃないのか? ぽかんと地味に混乱する文化委員一同は、扉の向こうから現れた人物に更に混乱を増した。

その人は部屋の中を見渡すと、騒ぐ俺らをスルーして木野先輩のところへ歩みを進める。唖然とする木野先輩を見て、一つ礼をした。

「・・・すみ、ません、遅れ・・・ました・・・」
「な・・・、お前は、桂木、陸・・・!?」
「、・・・会計、は、用事があって、・・・代理で、」

ボソリと呟くように、しかし部屋全体に通る耳ざわりの良い美しい声。会計ではなく、ある意味会長よりも有名な生徒会書記、桂木陸さまがそこにいた。

艶やかなサラリとした黒髪。身長は高すぎず、低すぎず。長い前髪からたまに覗く、青い瞳が美しいと評判の、生徒会書記。前髪で瞳が隠れていても判る、他を飛びぬけて美しい顔立ちから、熱狂的なファンが多い。何よりその細身の身体から発せられる空気が、彼を特別なものだと言っていた。社などで感じるような厳かな空気。下手に触れてはいけないと思わせるような気高い雰囲気。
文化委員室は酷くざわついているのに、彼の周りだけ静かな空気に包まれていた。

彼が有名な理由は、なにも容姿だけの話ではない。彼は生徒会でありながら生徒会を忌避する変な人物なのだ。仕事はしているらしいが、一週間に一度しか生徒会室に立ち寄らず、日々を静かに暮らしている。しかし、授業にあまり出ない彼が、なんでも一週間ほど前からよく顔を出すようになったらしい。それだけで学園は驚きに包まれているのに、更に生徒会の仕事をしている彼を見る事になろうとは・・・! しかもわざわざ代理をしている姿を!



その後、無口と有名な桂木さまが会議? と心配に思ったがそれは杞憂で。というか今まで以上にスムーズに進む会議に何故だか変に感動してしまった。木野先輩の機嫌も直ったし、新歓のある程度の形は見えてきたし・・・!

・・・会議後に配ったお茶に、ありがとうとちいさく微笑まれたときは、俺本気で桂木さまの親衛隊に入ろうかと思ったほどだった。





2010/03/06/


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