(第三者視点)
「陸、なにがあった? 松野はどうした?」
「わ、か…な……」
譲の腕の中で陸が首を横に振り、そのまま顔を譲の肩に押し付ける。小刻みに震える腕を、譲の体に回す。
「か、いちょ…と、わか、れて」
ひくり、小さく喉が鳴る。襲った生徒達はすでにいない。顔を青くしたままの教室を去っていった彼らには後日、風紀委員から罰則の通達がいくだろう。
譲の背中にまわされた陸のてのひらが、ぎゅうと譲の制服を握り締める。
「それ、で…いき、なり、おそ、…おそわれ、…て…」
「陸、」
「、ゆ、ず…わか、な……、な、んで…みんな」
肩から顔をあげて、青い瞳で譲を見上げる。涙にこそ濡れていないが、不安定にゆれる瞳をみて譲は陸の頬を撫でる。
己の顔がそこそこ整っているのは、陸自身も多少は理解している。けれど、譲たちに比べれば低いが、それでも平均より身長が高い陸は、自分に恋慕のような感情を抱くのも慕ってくれるのも、小柄な生徒達だけだと思っている。思っているからこそ、襲われる意味がわからないのだ。しかも残念なことに腕力のない陸は、襲われたときに抗うすべがない。
なんで、と混乱したまま問う陸。きっと青目の顔の整った生徒が陸だと、生徒会書記の桂木陸だと知れば襲う人間はいなくなるだろう。それほどまでに生徒会の権力は偉大であるし、また書記の陸自体が不可侵の存在として扱われている。
「一週間、くらいか」
「…?」
ちいさく喉をならす陸に、労わるように微笑みかける。
陸が生徒会の桂木陸だと生徒達に知れ渡るには、一週間もあれば十分だろう。手っ取り早く全校集会でも開けばいいのだろうが、こんな理由で集会を開くのも駄目だろうし。
「陸、」
「…ん…?」
大分おさまってきた震え。ゆっくりと陸の背中を優しく叩きながら、譲がにっと笑った。
「一週間、オレの部屋に泊まりにこい」
「、え…?」
「お互い一人部屋なんだからかまわねえだろ。あと、一週間はどっかに行っての昼寝は禁止な」
「ぅえ、…な、んで」
「寝るならオレか…稜を連れて行け。」
ぎゅ、と眉を顰める。昼寝がスキな陸は、譲の提案に不満気である。
「でも、昼寝のために授業を受けたい稜をつれてくなんて…できねえだろうけど」
な、お兄ちゃん。
教室にいれば衆目があるから襲われることはない。しかも青目の生徒が陸だと知れ渡る速度もあがるだろう。一週間部屋を一緒にすれば、教室までの送り迎えもできるしな。
「まあ、襲われねえようにする為って思っとけ」
「…う、」
「一週間なんて早く過ぎる。プリンもつくってやるから、な?」
「ぷ、…りん…」
「プリン。なんならクッキーでもケーキでも」
不満気な表情のまま。それでも小さく頷いた陸の頭を、譲は笑顔でくしゃりと撫でた。
帰りに売店という名のスーパーで材料買わなきゃな、なんて考えながら。
2010/11/12/