115
(陸視点)



「陸…」
「っ、!」

ぶつかった肩をがしっと掴まれて、身体が竦む。前方からは転入生が迫ってきていて。…前門の虎、後門の狼とはこのことか。取り合えず自分だけじゃ回避しきれないということはわかった。譲、稜、どうしよう…!

「竜! そのまま陸つかまえててくれっ!」
「は…?」

転入生は会長を仲間だと判断したらしい。しかしそれに間の抜けた声で応じた会長は、転入生に気付いていなかったらしくぽかんとした顔を晒していた。微かに緩んだ肩の手に、いまだと身を捩る。…が。

「陸、ちょっと来い」
「、えっ…!?」

何故だか腕を掴まれて、廊下を走る羽目に。いやいや、なんで。後方から転入生…はいいとして、稜や譲の声が聞こえる。ちょっと、え、え、どうすればいいのこれ。半ば引きずられる形で廊下を走る走る走る。

会長足速いし、息は苦しいし掴まれている腕は痛いし…なにより体温が気持ち悪い。


「は、…っ、はな、し…!」

離してってば! というかどこに向かってるんだろう。

精一杯の力を籠めて、ぐいと手を後ろに引く。そうしたら、やっと気付いたらしい会長の足が止まった。

「っは、…ふ…、はぁ…」
「わるい…」

壁に背をつけて息を切らす俺に、会長が謝る。腕は掴まれたままで、謝る前に手を放せと思った。薄っすらと額に浮かぶ汗を拭う。無言で息を整える俺を見下ろしていた会長は、不意に歩き出す。もちろん腕は掴まれたままなので、そのまま一緒に歩き出す形になった。

見慣れた扉を、慣れたように会長が開く。今気付いた、生徒会室の前の廊下だここ。

すべらかに扉が開き、赤い絨毯が視界に入る。ずんずんと進む会長に引っ張られる俺は、大人しく後を追うけれど…会長がなにをしたいのかさっぱりわからない。


「陸、オレ…」

開けた室内、執務机の並ぶそこに、息を呑んだ。

「、しょ、るい…」
「…仕事、放ってて悪かった」
「か、いちょ…が?」


一応、な。ばつの悪そうな表情を浮かべて、少しだけ照れたように頬をかく。

全部無くなったわけではないが、明らかに減った机の上の書類。それを全部、一人でやったというのだろうか。

視線を爪先に落とす会長をみて、驚きで頭が一杯になる。どういう経緯で、仕事をやろうと思ったのかはわからないけれど。


薄っすらと会長の目の下に浮かぶ隈に、何故だか掴まれた腕が気にならなくなった。…気がした。





2010/10/30/


prev next

MAIN-TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -