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(第三者視点)



久々に授業を受けた陸は、少し分からなくなっている勉強に焦りを覚えた。しかし授業に遅れてきた上に先ほど邪魔をしてしまった為、なんだか教師には聞くに聞けず。かといってクラスメイトにはもっと聞けず。
小さく溜息をこぼして、仕方なく板書をすませた陸はなんとか昼までの授業をこなしつつ、譲に後で聞こうと心に決める。
昼前最後の授業の終了を告げるチャイムと共に席を立った陸は、教室の扉へ向かい廊下に出るとそこでそわそわとした様子で佇んだ。

飼い主を待ってるわんこのようである。

その姿に癒されるクラスメイト一同。見たことのない綺麗な顔の生徒に興味を示す他クラスの生徒達。

そわそわと指を組む陸の周りに、いつの間にか出来る人だかり。顔を俯かせる陸は気付かない。気付いたら恐らく失神モノであることは間違いないが。


「んだこの人だかり……。陸、」
「ゆずっ…る…っ!?」

譲の声に反応して顔を上げた陸は、案の定自分の周りに出来ている人だかりを見てぴゃっと顔を青くさせる。裏腹に微かに裏返った声に自分で恥ずかしくなったのか、薄っすらと耳を染めていた。周りのざわめきに反射的に譲の傍に駆け寄る。


陸…って? 桂木さま? あの人が桂木さまだって…?


ざわりざわりと揺れる人だかり。隣近所の生徒と会話を交わし陸を凝視するその人だかりに、びくびくと肩を強張らせて譲の後ろに隠れた陸。陸の様子に苦笑を零した譲は、ぽんと陸の頭を撫でる。

「稜のとこ行くぞ、陸」
「…ん、稜…いく」

隠れつつもこくこくと頷く陸が、早く行こうと譲の手をとった。くいくいと小さく腕を引っ張って、人だかりの輪から外れるため歩みを進める。自然と道をあける生徒たちに恐々とした表情を浮かべつつ、それでもはやく稜に会いたいのかそそくさと歩く陸。


ようやっと人だかりから抜け出した陸は、少しだけ疲労を滲ませた表情で譲を見上げた。

「ゆず、」
「ん?」

少しだけ俯いて、ぽつりと呟く。

「…、おな、か…すいた」

珍しい陸の欲求に、譲はくしゃりと笑って陸の頭を撫でた。


「稜を迎えにいったら、何を食べるか三人で相談しような」

ぱあ、と華やいだ陸の表情に、譲は穏やかに微笑み返した。





2010/10/25/


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