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(陸視点)



「ごめんなさい桂木くん…!」
「煩くしてほんとにすまん! あまりにも、その」
「そうそう、桂木の顔が綺麗だったからさ!」
「ばっ、おま!」
「なんだよ、お前はそう思わないわけ? この美顔を見て?」
「い、いや…そりゃ綺麗だと思うけど何ていうかその、綺麗だなんて本人に面と向かっていえるか!」
「いってんじゃん」
「ホント桂木くん美人。っていうか綺麗」

教師も制止しないため、わらわらと陸の周りに集まるクラスメイトたち。陸に怖がられない程度の近さを保っているのか、それでも周りをぐるりと囲うようにしてクラスメイトに集まられた陸はかたりと肩を震わせる。普通に怖い。

ざわざわと言葉を交わす彼らに口を挟むことが出来ずに、所在無く佇む陸。

まるで見世物のようだ、なんてぼんやり考える。悪意は感じられないのだけれど、こんな風に囲まれるとどうしていいかわからなくなる。取り合えず逃げ出したい。部屋に引き返したい。引き篭もりたい。稜に会いたい癒されたい。

あ、稜のこと思い返したら薄っすら涙が。唇に掌をあてる振りをして、ぎゅと噛み締める。断じて吐きそうな訳じゃない、気分が悪いだけだ。

ざわりと空気が揺れる。ぐいと後ろに腕を引っ張られて、誰かの胸に抱きとめられた。

口を覆う手に、掌が重ねられる。ぐ、と腰に回った腕の体温にびくりと肩が跳ねて、しかし香ってきた馴染みのある匂いに意識が和らいだ。

「…ゆず、る」
「おら、陸が怯えてんだろ。席もどれお前ら」

ぎゅ、とごつごつした指を掴んでゆるやかに息を吐く。久しぶりに呼吸が出来た気分だった。陸の顔色に気付いたらしい周りが、口々に謝りながら各々の席に散っていく。

「陸。大丈夫か?」
「…、」

こくりと小さく頷く。譲の胸に頭を預けてゆるりと体の緊張を解けば、譲が腰に回した腕の力を強めた。


暫くの間譲の体温にぬくぬくと包まれた陸は、はっと唐突に周りの視線に意識を取り戻す。授業中な上に衆目の集まる教室で、なにやってんだ俺…!
譲の腕を軽く叩いて、上を向く。

「ゆず…っ、授業、ちゅう、」
「ああ、そうだったな…。この教室が急に騒がしくなったから、気になってな」


緩やかに微笑んだ譲に、旋毛に小さく口付けを落とされて、くすぐったさに首をすくめる。ふにゃりとした笑みを浮かべた陸は譲の掌に頬を擦り付けてから体を離す。

「おひる…稜、と」
「わかってる。迎えに来る、んでそれから稜の教室行くぞ」
「ん…」

こくりと頷いて、固まったままの教室の空気もなんのその、席に着いた陸とそのまま踵を返して教室を後にした譲に、幼馴染のスキンシップを間近に目撃したクラスメイトは内心悶絶していた…らしい。





2010/10/24/


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