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(陸視点)



ぽんぽんと頭を撫でられ、しかし震えが落ち着いた頃にやはり図書室からぽいっとされた俺は、また転入生が現れないか少し警戒しつつ教室へ向かう。授業を受けるのすら一苦労ってどういうことだろうか…。

―……。

授業中だったけれど、仕方なく教室の扉を開ける。授業が終わるまでと、どこかに時間を潰しに行けばまた厄介事に巻き込まれる予感がしたからだ。

カラリと乾いた音をたてて横にスライドする扉。

いつもの如く集まった視線に溜息を殺してそそくさと席に着こうと思ったけれど、いつもなら離れる視線がなかなか離れずに首を傾げる。何故だか凝視されていて居心地が悪い。何事?


「……桂木、か?」

クラスメイトと同じくこちらを凝視していた教師が、呆然とした顔で聞いてくる。…ああ、そういえば髪を切ったんだった。でもそんなに印象が違うのだろうか?
とりあえず教師に向かって頷き返せば、次の瞬間耳に劈く様な悲鳴が突き刺さった。

桂木さまのお顔が、お顔がああ!! ご尊顔をこの目で拝める日が来るなんて…! 青い瞳がなんて美しいんだっ!


陸が静寂を好むからこそ、他のクラスの生徒に比べて静かでいることを心がけている者達が一斉に騒ぎ出したため、陸が驚きで硬直する。注意することすら忘れて立ち尽くす教師は当てになりそうにない。陸自信も己が注意するなんてできないため、ぎゃあぎゃあと頭を揺さぶる悲鳴が続く。折角保健室で回復した気力も、先ほど副会長やら補佐の二人やら道哉に奪い取られたけども、なんとか残っていたそれが根こそぎ摂られて行くような気分に陥る。

悲鳴が耳に痛い。静かな図書室に居たからでもあるし、授業中なため静寂に包まれた廊下を歩いてきたためでもある。先ほどまでの静寂との落差の激しさに顔を歪める。

「…うるさ、い」

きつく眉を顰めて、いつもなら言わないキツイ言葉を吐き出す。ピタリと止まった空間にほっと息を吐いた。

耳に残る音を掻き消すように小さく首を振る。顔を上げれば、たくさんの目がじっと黙って陸を見つめていてびくりと肩を跳ねさせた。



……心なしか目が潤んでるのは気のせいだろうか。





2010/10/24/


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