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(第三者視点)



「…桂木、陸…です」
「………」
「…?」
「…桂木陸、って」

にこりと浮かべた表情のまま、要が問う。それに首を傾げて疑問符を浮かべる陸。

「生徒会書記の?」
「…」

こくんと、陸がちいさく頷いてからの要の行動の速さといったら素晴らしかった。あっという間に己よりも大きい陸の首根っこを引っつかみ、猫かなんかのようにそのままぽいと図書室の外に放り投げた要は、笑顔のまま何が起こったのか理解しきれずに呆ける陸に話しかける。

「生徒会の? あの無駄に光り輝いてる? そういえば君とても綺麗な顔してるね、お人形と見間違えるわけだ。」

ぺたんと床に座り込む陸は、呆然と要の言葉をきく。追い出された云々よりも、明らかに自分より小さい人間に軽々と持ち上げられたことの方がショックだった。

「君が本をすきって言うのはとても嬉しいんだけど、生徒会役員目当ての生徒で図書室が溢れ返るなんて悪夢みたくないんだ、ごめんね。」

つまりはもう来るな、ということなのだろうか。ぼんやりとする頭のままでそれを理解した陸は、しゅんと肩を落とす。それが飼い主に見捨てられた犬の姿に重なって見えた要は、ちょっとだけ陸に同情する。がしかし、己の領域の静寂を守るほうに天秤が傾いたらしい。
再度謝るために口を開く、がその前に黒い塊が二人の間に突っ込んできた。


「陸!! こんなところにいた!」

道哉である。今の今まで全力疾走プラス大声で陸を探していただろうに、息一つ切らしてないとはこれいかに。ぼんやりとしたままだった陸が、急に覚醒したかのように顔を薄っすらと青褪めさせる。詰め寄る道哉から逃げを打つように、廊下に下ろしたままの腰を後ろに下げた。

「なんで座ってるんだ? まあいいや! それよりも陸、昨日あの後仁になにもされなかったか?」

一歩分後ろに引けば、一歩どころか二歩くらい近付く道哉。陸のことを心配しているようだが、当の本人が陸にとって苦手そのものなのだ。心配されても困ってしまう。

騒々しい黒い塊と陸が、一歩後退し一歩前進しを繰り返してる様子をみていた唯一の人物、つまり要が口を開く。

「ねえ、桂木くんは君の事を拒否してるようだけど」
「はっ? え、お前誰だよ」
「図書委員長の藤木です。君は?」
「藤木な! 下の名前は? おれは秋月道哉! 道哉って呼んでくれ!」
「うん、秋月くんね。多分明日になったら忘れてると思うけど、一応よろしくね」
「明日になったら・・・って、あはは! 面白いな藤木! それに道哉でいいって! で、下の名前は?」

わお、なんだろうこのポジティブシンキングの塊。うざい、なんて思ってないよ、要が微笑む。二人が会話を交わしている隙に立ち上がった陸は、そのまま踵を返して逃げようと足を踏み出すが、一瞬道哉のほうが早かった。

「また逃げるのか!? どうしたんだよ、陸! やっぱ昨日仁に何かされたのか!?」

陸の腰辺りにがっちりと抱きつき、陸の逃走を防いだ道哉はその体勢のまま陸に問う。ちなみに陸は今にも失神しそうな顔色である。いやいやと首を振ってどうにか道哉を剥がそうと奮闘している。

あんまりな光景に要が眉を顰める。これが例の転入生か、と心のブラックリストに赤ペンで書き加える。図書室にあんまり入れたくない性質の人間だな、なんて失礼なことを考えながら。

それに流されたけど、やっぱり私の目には。


「桂木くん、君の事を嫌がってるようにしか見えないんだけどな」





2010/10/24/


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