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(陸視点)



稜のように艶々でも、尊先輩のようにさらさらでもない。少々猫毛なしっとりとした黒髪。前髪の下で反射する黒縁の眼鏡の奥で、黒い瞳が穏やかに微笑んでいた。

図書室の主のような静かな空気に何故だか安心する。

「・・・それで、」

ぼんやりと藤木要先輩を見つめていたら、痺れを切らしたのか右から左に首を傾けなおして先輩が問うてきた。

「授業には出なくていいのかな? お人形さん」

にこりと違和感無く放たれた言葉に呆ける。・・・お人形、さん? もしかしなくても俺のことか・・・!?

「・・・」
「あれ? もしかして本当に人形なの? 喋れ・・・ないのかな?」

にこにこと余りにも笑顔で言うのだから、図書委員長が本気で言ってるのか冗談なのか全く区別がつかない。こんな大きい人形いつから図書室に置いたのかな、なんて笑っている彼を見る限り、本気で人形だと思っていても・・・不思議じゃない。
若干の気まずさを感じながら口を開く。


「・・・あ、の・・・」
「わ、喋った!」
「・・・。」
「なんてね、冗談だよ。」
「・・・・・・。」
え、やばいこの人不思議キャラだ。どうしよう着いていけない・・・。なんてぐるぐる考える。にっこり笑顔な図書委員長への戸惑いを隠しきれなかったのか、ふふ、と笑みをミステリアスなそれに種類を変えて図書委員長が一歩足を踏み出した。

「本は好き?」

これはまた唐突な質問である。その問いかけに一瞬考えて、ひとつ頷く。

「す、き・・・」

本が、というより図書室の雰囲気が。まあ本も好きだけれど。なんて考えてたら、ガシッと肩をつかまれた。え、なになに!?
慌てて目を向ければ、眼鏡の奥の瞳をきらきら輝かせた図書委員長が居た。っていうか肩痛い・・・! え、俺より背低いのに、すごく力強いんだけどこの人・・・!

「授業をサボってまで本を読みたいなんて・・・! いいことだね、うん。すっごくいいことだよ。好きな本は? よく読む作家はいるのかな? この学園本はたくさんあるのに、利用者が少なすぎるんだよね! みんなもっと本を好きになればいいのに。その点君は本の素晴らしさをよく分かってるね! あの紙を捲くる感覚だとか、本の匂いだとか。素晴らしいよね。一冊の本に様々な物語が詰め込まれてるところもすごい。書き手によって童話にも専門書にもなりえるんだよ? なんて素晴らしい可能性を持っているんだろう! 君もそう思わない? 思うよね! うん、本って素晴らしい!」

耳が痛い。

肩を掴んでいた手は離れ、両手を組んで恍惚とした表情を浮かべる図書委員長に一歩後ずさる。変な人に出会ってしまった・・・!
徐々に後ずさっていたら、不意に図書委員長の顔がこちらに向いた。普通に怖い。

「そういえば、君ってだれかな?」

名前は? なんて朗らかに聞いてくる図書委員長に脱力。今更過ぎる・・・!





2010/10/23/


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