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(陸視点)



「陸ー!! どこいるんだよ、陸ー!?」


いやいやいや、まさか俺が見つかるまで学園中で俺の名前を呼んで歩くつもりなのか・・・?

廊下の向こうからどんどん大きくなってくる声、頭が異様に大きく見える不気味なシルエット。


あれは・・・転入生、だ・・・!

なになに、何かした俺。いや、昨日保健委員長の前に置き去りにしたけど。それは俺のせいじゃないっていうか、ああ、もう、睨むなってば副会長に補佐二人! 何の用事で名前を呼ばれてるか皆目見当がつかないし、そもそも呼ばれたくないというのに・・・。今までの色々な出来事のせいで転入生にしっかりばっりち苦手意識を抱いてしまったのだ、仕方ないだろ。


かちんと固まった表情で、しかし内心は見事に荒れ狂っている俺。
徐々に近付いてくる転入生。
睨む副会長。
こそこそと何か囁きあってる補佐の双子。

場の状況を理解した瞬間に、足が勝手に踵を返していた。「あっ、陸!」とかいう声が聞こえた気がするけれど、気のせいとして処理する。そのまま廊下を駆け出した。



角を曲がって階段を上って走って下って、兎に角逃げる逃げる逃げる。捕まってなるものか、何か知らないが捕まったら不幸が待ってる気がするのだ。


鈴をつけられた動物のように、俺の名前を叫びながら追いかける転入生は今どの位置にいるのか非常にわかりやすい。どうやら足の速さは俺のほうが上らしい。

「陸ー! なんで逃げるんだよ!」

お前が追いかけてくるからだ。






そろそろ走るのにも疲れてきた頃、目に飛び込んできた図書室の文字にすぐさまそこに飛び込んだ。外ではまだ俺の名前を呼ぶ声がするので、しばらくここで身を隠させてもらうことにしよう。



静かな図書室をぐるりと見渡す。並ぶ本の背は、軽く数千以上あるだろう。へたな図書館よりも蔵書数は多いのではないだろうか。

遠くで俺の名前が聞こえはするが、穏やかな静寂がたゆたう図書室にほうと息を吐く。


折角だから読書しようかな。本は好きなのだが、最近は時間が取れなくて全く読んでないのだ。

心なしか上がった気分のまま一歩踏み出す。
なに読もうか、

「なにしてるのかな?」

な・・・。って、人!?


「っ、・・・!」

横から聞こえてきた声にばっと振り向く。黒髪をゆらして小首を傾げる人物が、穏やかな空気で問いかけてきた。

「もう授業が・・・始まってるね。行かなくていいのかな?」

俺から視線をそらして、図書室に置いてある時計に目をやって時間を確認したその人は、再び俺に視線を戻すと首を傾げる。

黒い縁取りの眼鏡をかけたその人は確か、。

「・・・あな、た、・・・こそ」
「私は図書委員長だからね、この時間は許可を頂いてるんだ」

にこりと、朗らかに微笑む。
図書委員長の、藤木要先輩がそこにいた。





2010/10/22/


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