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(陸視点)



痛む頭を抑えて廊下を歩く。
保健室に向かって歩を進めながら、先ほど顧問に言われた言葉を考える。情報元は理事長だと言っていたから、転入生が来るのは確実だろう。ただ、「転入生が来る」という情報しか教えて貰っていないため、どんな生徒が来るかは全くの謎なんだとか。・・・溜息。

ちょうど着いた保健室の扉を前に、腕時計で時間を確認する。7時10分ちょっと過ぎ。授業が始まるまで一時間は余裕があることを確かめて、重い手をあげる。扉を開けるためだ。
先ほど顧問に頼んで保健室に電話を入れて貰ったので、保健医がいるのは確実。遠慮なく扉を開けさせてもらった。

「・・・おはよう、・・・ござい、ます」
「はい、おはよう桂木くん。いらっしゃい、いま準備してるから先にベットで寝ててくれる?」

ふんわりと朗らかな微笑を浮かべて、保健医がこちらに振り返りながらベットを指差す。片手に点滴のパックを持っているのをみて、一つ頷く。・・・昨夜稜に、「どうしてもご飯を食べる気がおきなかったら、せめて点滴だけでも受けてね」と言われていたのを職員室で思い出したので、朝食を食べる気にはならなかったから顧問に頼んで電話をしてもらったのだ。


靴を脱いでベットに腰掛ける。自室のベットほどではないが、柔らかなマットの感触にほっと息を吐いた。そのまま横になって、純白の天井を見上げる。シャワーを浴びて眠気は飛んだと思っていたが、やはり疲れていたらしい。ふわふわと意識が霞んでいく。

「桂木くん、腕に針を刺すからちょっとチクッてするけど気にしないでね。 だいたい一時間くらいで終わるから。」
「・・・、ん」

ほんの少ししか痛くなかった。よく病院に行って点滴を受けるときに、俺の血管が細いのなんだのと言って何回も腕を刺す看護師も多いのに。一回で済ませるなんて、手際のいい。さすが誉学園、保健医の質もいいな、・・・なんて。

にこにこ笑う保険医の顔がぼやける。

「・・・せんせ、い・・・」
「うん? どうしたんだい?」
「て、んてき・・・、終わったら・・・」
「終わったら? ・・・ああ。大丈夫。ちゃんと起こしてあげるから、ゆっくりおやすみ?」

察しもいい。保健室になんてあまり来たことがなかったけれど、この保健医がいるなら居心地も良さそうだ。屋上の次くらいに。基本はやはり、人が誰もいない所がいいから。

そんなことを考えながら、襲いくる睡魔に穏やかに身を任せた。

そのため、意識が落ちる間際に保健医に放った「ありがとう」がちゃんと言葉になったかは謎だけど。





2010/09/24/


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