(陸視点)
深い闇の中に、ひとりぼっちでいる感覚。果てがあるともわからない空間で、膝を抱えて座り込んでいた。頬を伝うこれは、なんだろう。
「陸、おはよう」
「・・・おはよ、う。」
目を覚ましたら、穏やかな微笑を顔に刻んだ稜と目が合った。譲の姿はない。どこか悲しげにも見える稜の笑顔。いつもは癒されるのに、なんだか哀しくなった。
「稜」
言葉もなく、稜が首を傾ける。なあに、雰囲気は穏やか。でもやっぱり、顔には悲哀を感じさせる微笑。
静かな笑顔が、酷く哀しい泣き顔に見えた。
「譲、は?」
「譲くんは、風紀委員の仕事をしに行ってるところ、だよ」
「・・・仕事・・・?」
「うん、仕事。」
首を傾けたまま微笑む稜が、てのひらをそっと伸ばす。温かい手が頬を労わるように撫でて、離れていく。
それ以上聞かないで、と。
哀しそうな笑顔のまま稜が呟くから。俺は声を失って、ただ小さく頷いた。
2010/09/15/