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(第三者視点)



「なにがあったんだ?」

眠りに就いた陸を見つめて、険しい表情で譲が稜に問う。陸の両手を片方ずつ握り締めて、ベッドの両サイドに佇む二人。

譲の問いかけに稜は静かに首を振る。眉を顰めて、陸の頬に残る涙のあとをなぞって譲に目を向けた。

「僕も峰先輩に教えてもらっただけ・・・だから、」
「・・・そうか」

唇を噛み締める。どよんと暗い空間に、不自然な明るい声が響いた。

「くっらいなあ! ボクの保健室でそういう空気だすのやめてよねえ!」

けらけらと、からかうような音を含ませて嘲笑うような声。ばっと保健室の入り口に目を向けた譲と稜の目に、にこりと笑う保健委員長の姿が映った。


「・・・神崎先輩」
「不景気な顔だねえ、麻埼」
「? ・・・青い」
「君が桂木陸の弟の桂木稜? あは、この青い髪キレイでしょお?」

青い髪に青いカラコン。にんまりと猫のような笑みを浮かべる少年が首を傾げる。ひどく困惑した様子で一を見つめる稜は、ほんの少し顔を歪める譲を見やった。

「保健委員長の、神崎一・・・先輩だ」
「先輩・・・」
「あっ、いま年上に見えないとか思ったあ?」

小柄な体躯の一は幼く見られることが多いのか、稜の微かな戸惑いを汲み取って囁く。一の笑顔になぜだか心臓が冷えるような、怖じ気にも似た感情が稜に浮かんだ。
それすらも感じ取って、一は笑う。

「まあ、陸の弟だしい。見逃してあげる。ところで麻埼」

するりと稜から音もなく視線を外し、譲を見つめる。訝りながらもなんですか、とちいさく呟く譲に今日の一番の笑みを浮かべた。


「今日、陸に何があったのか知りたくなあい?」





2010/09/12/


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