93
(稜視点)



ダダダダーッと徐々に近付いてくる足音。キキッ、と急ブレーキのかかった車のような音とともに、保健室の前でその足音がやむ。やんだかと思えば、次はガシャーンッと盛大な音を立てて保健室のスライド式の扉が開いた。あ、強く開けすぎた反動で跳ね返ってきた扉がまた閉まってる。かっこ笑いかっことじ。乾いた笑いしか出てこないけど。いや、まあ、気持ちはわかるけどね、うん。


「陸っ、無事か!?」

やりすぎ譲君。

息を切らして叫ぶ譲君に、僕を抱き締めていた陸の手が緩む。・・・ちょっと残念。とりあえずそのまま僕も手を緩めて、陸から離れる。ベッドから起き上がって地面に足をつけた。その間にもずんずんと近付いてきていた譲君。


「・・・、譲?」
「稜から連絡がきたんだよ。無事か?怪我は?なにがあった?」

譲君がここにいることに目を瞠って驚く陸に、そう返す。



「・・・なに、が・・・」

ぐっ、と陸に近付いて譲君が問う。その問いに、ふと陸の顔が曇った。

薄紅色の唇が、なにが、とちいさく呟く。無意識にか、指先で腹を撫でる仕草をした陸。紅潮していた頬が、また色味をなくしていく。

それに気付いたのか、鬼気迫る表情だった譲君の顔が緩んだ。ちいさく笑みを浮かべて、陸の頬をゆるりと撫でる。


「なんでもねェ。何があったか思いださなくていい。・・・ゆっくり休め、陸」

まるで家族のように、兄のように、優しく囁いた譲君は、大きな掌で陸の目を覆った。

ゆっくり休め、その言葉とともに譲君の手の隙間から流れた雫に、はっと息を呑んだ。流れた雫は一筋だけ。ちいさく耳に届く寝息に、陸が眠りに就いたことを悟った。





2010/09/01/


prev next

MAIN-TOP

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -