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(稜視点)



「稜、りょう、りょう・・・」

ほわほわと微笑む陸は、陸の上にもたれかかるようにして倒れている自分を両手でぎゅうぎゅうと抱き締めている。
黒髪に鼻先を埋めて、ほうと安堵の吐息を吐く陸。
陸のされるがままにしていた自分に、陸が顔を覗き込むようにして首を傾ける。


「・・・稜、ぎゅって・・・」
してくれない、の・・・?

きゅうん、と犬の甘えた声でも聞こえてきそうな陸の仕草に、不謹慎ながらもときめいた。どこか不安げに上目で見つめてくる陸はまるでわんこのよう。可愛いなあ、と考えると同時に陸の格好に稜は眉を顰める。





移動教室のために廊下を歩いている途中、体育委員長である高貴に出会い、陸のことを聞いて真っ先に保健室に駆けつけたのだ。保健室のベッドで倒れるようにして眠る陸の顔色が不気味なほどに青白く、まるで死人のそれに慌てふためいたものだ。ひとまず譲にメールで連絡をとり、ベッドに戻れば囁くような声が聞こえた。


「・・・稜・・・」

頼りない声で自分の名前を呼ぶ陸に、何故だかこっちが泣きそうになった。

大慌てで駆け寄って、宙を彷徨う手を捕まえて握りこむ。氷のように冷たい指先に、心臓がヒヤリとした。自分の体温をあげることができたら、どんなにいいか。そう思って指先を包んだ。

顔を覗き込めば、微笑んではいるが憔悴の色を濃く感じ取れて。ぼんやりと焦点を結ばない、普段は宝石のように輝く青色が硝子のように曇っているのを見て、くしゃりと顔が歪んだ。白磁の頬を撫でる。そのまま陸の上に崩れ落ちた自分の背中に、陸の手がゆっくり乗せられた。

そして冒頭に至る。


制服はボロボロだし、陸自身も先日からの怪我諸々でボロボロ。それなのにぎゅっと抱き締め返せば浮かべる幸せそうな笑顔。


廊下から聞こえてくる盛大な足音は、きっと譲のものだろう。

「陸が保健室で臥せってる」

それだけのメールで、今現在ドップラー効果を身体で表すような凄まじい足音をたてる譲を思い描き、この陸をみたらどうなるのだろうと少しだけ身震いした。





2010/08/29/


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