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(主人公視点)



―・・・!


とろとろとまどろむ思考。


・・・く、・・・っ!


大好きな声が、自分の名を呼んでいる気がした。


その声の持ち主に大丈夫だよと言いたかったけれど、何故か起き上がろうという意識に反して身体がピクリとも動かないのだ。

大好きな漆黒の髪に指を絡めて、頭を撫でて、細い身体を抱き締めて。大丈夫だよ、泣かないで、と。囁く言葉すら思い通りにならず、ただ動かない身体に絶望して、どこか・・・・・・安堵して。


・・・陸っ!


ああ、・・・稜・・・。


起きて、・・・よ・・・!



泣きそうなその声を最後に、まどろんでいた意識が闇に絡め取られていく。



ごめんね、稜。これじゃあ俺・・・お兄ちゃん失格、だな。




そう言ってわらう気力すら、いまの自分には無いように感じた。



ふわりとした妙な浮遊感とともに、硬く閉ざしていた目蓋が震える。暗闇の中ゆるりとした感覚に包まれながら、意識が浮上してきたことを悟る。



ああ、・・・・・・稜に名を呼ばれる夢を見た。

だのに、己は指先一つすら稜に応えて動かすことが出来なかった。


そろそろと、睫毛を揺らして目を開ける。カーテンで幾分遮られた陽光が柔らかく目を刺激してきて、どうやら保健室で倒れるように眠ってからそんなに時間がたっていないことを知る。





稜に会いたい。

細い溜息を吐く。
ぼんやりと天井に視線を投げて、ただそれだけははっきりと願う。


今すぐ稜に会って、抱き締めて、謝りたい。
・・・けれど、殴られた腹が痛んで、破られた制服に足が竦んで、ベッドから起き上がることすら儘ならない。そのことを情けないと感じる。一端の男がこんなことでどうするんだろう。
けど、会えない。稜に会いに行くよりも先に、生徒会の仕事をしなければいけないだろうから。なんだかんだで昨日の午後と今日の午前中分・・・実質一日分の仕事をほったらかしにしているのだ、信じられない量の仕事が溜まっているのが容易に想像できて頭が痛い思いだ。


見慣れない保健室の天井。柔らかい陽光とは逆に、白すぎるそれが目に染みた。



「・・・・・・稜・・・。」

震えた声で紡がれた音が、静かな保健室にとける。




だから。


「陸・・・?」



耳が聞き覚えのあるその声を捉えたとき、陸は心臓が止まってしまうほどの驚きに包まれた。





2010/08/21/ and 2010/08/24/


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