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(第三者視点)



ところで一方、こちらでは。



「・・・な、なに言ってんだよお前・・・! か、かつらなわけ・・・っ!」
「へえ、鬘なんだ。」
「えっ!? いや、その、ちが・・・っ!」

「ボクは"その変装、すっごく面白いねえ"って言っただけだよお?」


にぃ、と口端を吊り上げて笑う一に、びくりと肩を竦ませる道哉。怯える反応を面白そうに眺めながら、一はこてりと首を傾げる。青い髪がその動きにあわせてゆらめく。


「そっかあ、鬘だったんだ。いいこと聞いちゃったな」


歪な形に切れ込まれた穴のように、赤い唇が不気味に笑う。その笑みを正面から受けて、道哉は頭のどこかがおかしくなりそうだった。


いけない。だめだ、このひとは、だめ。

警鐘が鳴り響く。足は一歩も動かず、己の思い通りになりそうにない。
歪んだ微笑に怖気を震う。


この笑顔は、簡単にひとを壊せる人間が浮かべるものだ。直感でそうと感じ取った道哉は、それでも一から逃げ出すことも出来ずに突っ立っている。



「 ね え 」

「っ!!」

一歩も動けない道哉に、哀れむような笑みを浮かべた一が一歩踏み出す。その瞬間に、金縛りから解けた道哉はあわてて踵を返し、全速力で走り去っていった。



道哉の逃げる後姿を眺めて、一は残念そうに笑う。

もうちょっと遊びたかったのになあ、残念。

そう呟いた声は誰の耳に入ることもなく、沈んだ廊下に解けて消えた。





2010/08/17/


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