05
(第三者視点)



甘い甘い空気を垂れ流して、桂木陸が微笑む。前髪から薄らと覗く瞳は優しさに満ち、普段硬く引き結ばれている唇は緩やかな弧を描いている。
学園の誰もが向けられたことのないそれを、桂木稜は当たり前のように、日常のように、極自然に受け入れていた。稜が黒い瞳を細めて笑って見せれば、陸は稜に擦り寄って笑みを深める。

まるで恋人。蜂蜜のかかった砂糖よりも甘い空気に、いまだ役員は時を止めたままだった。そして稜に話しかけたのに、自然と蚊帳の外へ追いやられてしまった秋月道哉は、何故だか拳を握って小さく震えている。
幸か不幸か、愛されて甘やかされて育ってきた彼は"相手にされない"という経験をあまりしたことがなかったのだ。

「・・・っおい! おれのこと無視するなよ! 陸、だっけ。なあ、お前稜とどういう関係なんだ!?」

道哉の質問に、桂木という、苗字が一緒なふたりは同時にポカンとした。気付いてないの? 顔が物語る。

「俺と、稜は、」
「兄弟、だよ。」

兄弟ィ!? 時を止めていた役員から驚きの声が上がる。まさか、いやまさか。こいつらも気付いてなかったのかよ。若干呆れを滲ませた表情で、陸が役員の顔を見渡した。他人との接触を忌避する陸が、こんなに親しげにしていてその上苗字が一緒とくればもう。兄弟ってわかりそうなもんじゃないか?
小さく溜息を吐いた陸は稜を更に抱き寄せて、二人を凝視する全員を見渡す。

「稜は、俺の・・・大切な弟。・・・手、だしたらころす」
それが、恋情を伴った甘やかなものでも、悪意のこめられた害でも。稜の望まないモノは全部排除する。

甘い雰囲気を一切取り払って宣告する陸に、知らず役員達の喉が鳴る。行き過ぎともいえる兄弟二人の執着はすさまじく。周りから見れば異常でも、二人やその家族にとったら変な所などない極々普通の家族愛なのである。まあ、お互いが家族愛と思ってるかどうかは別として。

「兄弟だったのか! 似てないんだな!」

陸の発するピリピリとした空気の中、二人の関係がはっきり知れてスッキリした秋月道哉だけはその空気を感じなかったようで。
ぽわわんとした空気を纏って、明るい声で二人に言う。その言葉に一瞬だけ陸と稜の動きが止まったが、生憎ながら道哉は二人の些細な変化に気付かなかった。

「・・・稜、そろそろ・・・教室に帰ったほう、が、いい・・・」
「うん、そうするよ陸。授業に出なくちゃ、あ・・・ねえ、許可証を陸から出してもらってもいい?」
「? ・・・許可証? 貰ってないのか?」

きょとんと首を傾げる陸。二人のやり取りを聞いて、気まずそうな表情を浮かべる役員たち。許可証? ナニソレオイシイノ、ぽかんとする道哉は最早いろいろと論外である。
その場にいる全員の顔をみて、何だか察してしまった陸は再び溜息を吐くと 稜の頭を撫でる。

「今までの、分、ちゃんと全部・・・だしとく、・・・」
「ありがとう、陸」
「・・・稜の、ため・・・」
当たり前、だから

呟く陸に、稜はほんのり頬を染めて微笑む。道哉他役員が空気過ぎて泣けてくる。


その後、机の上に溜まった書類をみとめて表情を険しくした陸に、あっという間に稜と道哉が教室に帰されてしまい。最後まで文句を言っていた双子と副会長を睨んでそれぞれの作業机へ追い立てた陸は、自分の分の仕事だけを持って退室する。
退室間際に聞こえた、「稜に迷惑かけたらつぶす」という言葉に、全員が悪寒をおぼえたとかなんとか。


(転入生の同室って稜のことだったのか、・・・。稜になんかあったらツブス)

生徒会室からの帰り道に、なんだか突然オトコの大切なバショをガードした道哉に、稜はとっても怪訝な表情を浮かべていたとか。





2010/03/06/


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