佐藤兄弟シリーズ

1 合格発表


俺、藤堂滋郎(トウドウ ジロウ)は、隣に住んでる幼馴染みの佐山太郎(サヤマ タロウ)と一緒に、高校の合格発表を見に来ていた。
太郎は「オレ見てくる!」と言って、掲示板の前の人だかりに突っ込んで行った。

……あ、はじき出された。
よろよろと二、三歩後ずさる太郎。

今度はその場でピョンピョン飛び跳ねる。…が、がっくり肩を落としている所を見ると、どうやら掲示板は見えなかったらしい。
あー、俺らまだ成長期になりたてほやほやだもんな。俺らがチビなんじゃない。周りの奴らの成長期がちょっと張り切りすぎただけなんだよ。俺らもきっとそのうちにょきにょき伸びる!……に違いない。きっと。多分……

太郎はぐっと握り拳を作ると、また人だかりに突っ込んで行った。
今度ははじき出されなかったらしい。
少しずつ人だかりに飲まれていく太郎の、まだ寝癖のついている後ろ姿を見ながら、俺はくすりと笑った。

太郎とは幼馴染みも幼馴染み、もうスーパー幼馴染みと言っていいくらい、ずっと一緒にいる。
何せ中学、小学校、幼稚園だけじゃない。生まれた病院、生まれた日まで一緒なのだ。これで生まれた時間も一緒ならもっと面白かったのに、残念ながら太郎の方が一時間程早く生まれたらしい。神サマ、そこは空気読んどこうぜ。

それで家が隣同士で仲が良かった俺らの両親は、この偶然を面白がって、先に生まれたアイツを太郎、俺を滋郎と名付けたらしい。
それでいいのか? 両親ズよ。

しかもタロウとジロウってなんか犬みたいだな。
兄弟っぽくっていう両親ズの考えはわからんでもないが、どうせつけるならもっとカッコイイのにしてくれたら良かったのに。

両親ズのお気楽さに頭が痛くなりそうだが、そのお気楽さのおかげで、俺と太郎の二人はお互いの家を行き来し、まるで本当の兄弟のようにして育ったから、ま、その辺は感謝かな。

例えば晩飯とか、太郎ん家で遊んでたら晩飯の時間になったからってそのまま食べたり、反対に太郎が俺ん家で食べたり。
両親ズも当たり前のようにニコニコ笑って飯を出してくれるから、ありがたいことだ。

で、晩飯を食べた後は、自分の部屋に戻るのが面倒くさくて、そのまま太郎の部屋で一緒に寝たりしてる。
太郎も俺ん家で晩飯を食べた時は自分の部屋に戻るのが面倒くさいのか、そのまま当たり前のように俺の部屋で一緒に寝た。
つか、まぁ、ベランダを跨けば、すぐにお互いの部屋があるんだけどな。

物心ついた時からそんな状態で育ったから、お互いの服もマンガもごちゃごちゃに混じって、ぶっちゃけどっちの物だったかわからない物もある。わからないから放置している間に、更にごちゃごちゃになっているんだけど。

ほぼ毎日交互に互いの部屋で寝てて、自分の部屋が二つあるようなもんだから、まぁいっか、みたいな。
服の貸し借りや欲しいゲームやCDを分担して買えるし。
うん、“兄弟”って便利だ。って、俺ら血繋がってないけど、まぁ“兄弟”サマサマだよな。うんうん。細かいことは気にしない。

こんな風に家でも学校でもつるんでいる俺らに対して、誰が言い出したのか、佐山の佐と籐堂の籐を取って、ついたあだ名は“佐藤兄弟”。
中学の頃なんかすっかり先生達もそう呼んでいたんだから、いいんだか悪いんだか。
まぁ、俺らもその呼ばれ方、おもしろくて気に入ってるけどな。

俺がぼんやりと考えていると、太郎が笑顔で手を振りながら走って戻ってきた。

「じろー!」

「おー。合格してたか?」

俺の言葉ににっこり笑う太郎。お、好感触?

「番号忘れた」

「自分の番号くらい覚えとけ!」

「いだっ」

俺は思わず太郎の頭をベシッと叩く。

「ったく、しょうがないなぁ。こんなこともあろうかと、太郎の受験票も持ってきてて良かったよ」

叩かれて涙目だった太郎の顔が、パッと笑顔になった。
うん。お前のそうやってすぐ元気になるとこ、俺好きだよ。

「ほら、今度は一緒に見に行くぞ」

そう言って俺が太郎に向かって手を差し出すと、何を思ったのか、太郎は俺にガバッと抱きついてきた。
ちょっ おまっ 俺の差し出したまま行き場のなくなったこの手はどうしてくれる!

俺が太郎を引き離そうとすると、太郎は笑顔のままぐりぐりと俺に頬ずりをしてきた。いや、ぐりぐりっていうより、ぐりぐりぐりぐりぐり!!!って感じ? 摩擦熱で頬が火傷しそうだよ。
火傷しそうな頬ずりってどんなんだよ。つか、もうこれ頬ずりじゃねぇだろ。一種の攻撃だよ、攻撃。

俺がげっそりしていると、太郎がやたらなんか甘い声で言ってきた。

「うん、オレしょうがないヤツだから、滋郎がずっとそばにいて?」

「ハイハイ。じゃ見に行くから、はぐれんなよ」

「うん! オレじろーのそばから一生離れないから!」

俺が歩きだしても太郎はくっついたままだったので、仕方なく、俺は太郎を引きずって歩く。
つか、たかが合格発表を見に行くのに大げさな奴と思ったけど、太郎が楽しそうにしているから、まぁいっかと思った。

「じろー」

「んー?」

「じろーだいすきー」

「ハイハイ。俺も太郎が好きだよ」

「うへへ。じろーにすきって言われたー」

男の俺なんかに好きと言われて何がそんなに嬉しいのか、太郎は照れると体をタコのようにくねくねとさせる。
ここだけの話、内心キモッと思ったのは内緒だ。

つか俺ら“兄弟”だから、俺が太郎のことを嫌いになるはずなんかないのに。本当、太郎はバカだなぁ。
だけどそんなバカな太郎が、俺にはかわいくて仕方がない。兄弟愛ってスゲー。

そんなバカな会話(?)をしているうちに掲示板の前について。
結果は俺ら二人とも見事合格だったわけで。
俺と太郎は視線を交わすと、笑顔でハイタッチをした。

「これからも“佐藤兄弟”をよろしくな」

「おう! よろしくな兄弟」

今までがそうだったように、これからも楽しい日々になるに違いない。
そんなわくわくとした楽しい予感を抱きつつ太郎の方をチラッと見ると、太郎も同じことを考えていたのか楽しそうにしていたので、俺達は顔を見合わせ、くすくすと笑い合った。


―終わり―

→受験の切っ掛け


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