恋人の距離

1 恋人の距離2


俺、高橋陸(タカハシ リク)の恋人である斎藤健太(サイトウ ケンタ)は、意外と照れ屋さんだ。

健太の眉はキリッとしていて、黒髪を短く揃えている。口調もどこかぶっきらぼうだし。だから黙っていると日本男子というか、少し硬派な印象を受ける。

そんな健太が俺に話しかけられた時だけ、顔を真っ赤にさせ、めちゃくちゃ照れるのだ。
クラスの他の奴らには割と普通に接しているのに、健太が照れるのは俺にだけ。俺ってば愛されているよね。

本人はそれを隠そうとしていたから、俺は中々そのことに気付けなかったけど。
それに気付いた途端、俺は健太に恋をした。

それまでは健太に嫌われているのかな? なんて悩んだことさえあった俺は、健太に好かれていると分かった途端、うれしさのあまり舞い上がって、翌日の放課後には早速告白し、めでたく健太とつきあうことになった。

健太は意外と照れ屋さんで、そこが凄くかわいくて、愛しいわけなんだけど。
照れ屋さんゆえに、ひとつだけ困ったことがある。
それは恋人としてつきあうようになってからも一向に縮まらない、この距離だ。

俺と健太が普段歩く時の距離は、手を伸ばせば届くかどうかくらいの、少しもどかしい距離がある。それはそのまま、健太の心の距離。

それは健太が俺のことが好きだから、照れているわけで。つきあう以前は照れて俺から逃げていたことを考えると、逃げないで俺の側にいてくれるだけ、健太もすごい努力してくれているなぁというのは分かる。

俺も、そんな照れ屋でかわいい健太のことが好きになったわけだし。
でも好きだからこそ、こんな友達みたいな距離がもどかしくてたまらない。

告白したあの時確かに俺と健太の心の距離は縮まった、そう感じたのに。
そう感じたのは俺だけで、もしかして何も変わっていなかったのかな? なんて、そんな風に思えて無性に寂しい。

本当は歩く時だけじゃなく、教室でだってもっと近づきたいのに。
俺と健太は隣の席で。クラスで一番近い距離にいる。

だけど俺と健太は恋人どうしなんだから、もういっそ机をくっつけて、距離なんかなくしてしまいたい。そもそも俺と健太の間に通路があることの意味が分からない。マジで意味不明。

…まぁ、それはともかく。
俺としては二人でひとつの教科書をイチャイチャ一緒に見たり、授業中でだってずっと手をつないでいたいくらいなのだ。

俺だって健全な高校生。好きな奴とは近くにいたいし、もっとふれあいたい。
だから今の微妙な距離に悩む俺の気持ち、好きな人がいる奴ならわかるだろ?

少しでも今の距離を縮める為、俺は梅雨を利用してあることを思いついた。
それはズバリ相合傘。
ベタだけど、俺から誘えば健太は照れながらも頷いてくれるに違いない。

そしてその読みは的中した。
照れ屋さんな健太の為、あくまでも俺が頼み込んだように少し強引に相合傘をしたいと言うと、健太はやっぱり真っ赤な顔でプイッと横を向いて、小さな声だけどちゃんと「別に、いいけど……」と返事をくれた。

内心俺は思わずガッツポーズ。
ベタだけど好きな奴と相合傘って、憧れのひとつでもあるわけだし。俺はいそいそと健太の頭上に傘をさす。

照れているのか、相変わらす健太は俺から少し距離を取っていたから、健太メインで傘をさしている俺の肩は濡れてしまった。
だが俺は気にしなかった。健太が濡れなければ、それでいい。

もしこれで風邪をひいたとしても、健太を雨から守った勲章として、俺は喜んで寝込むだろう。
自分でも健太バカだと思う。いやむしろもっと健太バカになりたい。

それぐらいの気持ちで健太との相合傘にうきうきしていたら、健太が俺の肩が濡れているのに気付き、顔を真っ赤にさせながらチラチラと俺の方をうかがってきた。

「お、おい…肩……」

「ん? あぁそうだね。濡れるといけないから、もっとこっちへよって?」

俺は自分でも最高レベルだと思う甘い笑みを浮かべると、健太の肩をぐっと抱き寄せる。

「……っ」

俺がふれたせいか、健太の肩が一瞬ビクッと震えた。
健太は耳まで真っ赤にさせて、うつむいて無言になる。

耳まで真っ赤になって…… きっと凄く照れているに違いない。でも逃げずにちゃんと俺の側にいてくれる。
恋人のそんなかわいい姿を見て、口元がニヤけそうになるのを、俺は必死で抑えた。

だって好きな奴の前では、少しでもかっこよく思われたいじゃん。
ったく、それにしても健太は一体何回俺の心臓を鷲掴みにすれば気が済むのだろう。

(クソッ。心臓がもたねぇ!)

そんなこんなで、相合傘初日はあっという間に時間が過ぎてしまった。

つきあうようになってから毎日一緒に帰っていたけど、朝から迎えに行くのは許してくれなかった健太。
断る時に相変わらず顔が赤かったから、多分照れていたんだと思う。

本当、かわいいなぁと思う。
そんなかわいい健太をいつまでも見ていたいと思う半面、そんな健太がかわいいから俺はこの距離を縮めたくて必死なのだ。

今回相合傘にかこつけて朝から迎えに行く許可を取り付けた俺は、うれしくて口元がニヤけそうになるのを抑えるのに必死だった。

健太は凄い照れ屋さんで、そして口数が少ない。
だけどその分、真っ赤な顔が全てを語っていて。全身で俺のことを好きだって言っているみたいで、そんなところがたまらなくかわいくて愛しい。

ほら、今だってそうだ。
いつものように相合傘をしながらの帰り道。俺は健太の様子をチラッと盗み見る。

健太は相変わらず真っ赤な顔で、肩と肩が密着する程の近い距離…というより、ほとんどよりそうような感じで歩いている。布越しだというのに、健太とふれあう肩が、腕が、火傷しそうに熱い。

もういっそこのまま健太の肩を抱いて歩きたいくらいなんだけど、せっかくここまで健太と近づけたのに、近づきすぎてまた健太に逃げられたら嫌なので、内心泣く泣く我慢する。

時々何か言いたそうにチラチラと視線をよこしてくる健太がかわいい。
少しは、健太も俺に近付きたいと思ってくれてる?

そんな健太がかわいくて、うれしくて。
俺は自分でも最高レベルだと思う甘い笑みを、健太に向けた。

「どうしたの? 健太」

「べ、別に……」

そしたら健太の顔がボボボッと音がしそうなくらい赤くなり、またプイッと横を向く。
健太のかわいい顔が見れないのは残念だけど、健太がこんなにも照れるのは俺にだけだと知っているから、うれしさと優越感が同時に込み上げた。

口元がニヤけそうになるのを必死で抑えていると、次の角を曲がれば健太の家が見える所まで来てしまった。

もうすぐ健太と離れなきゃいけない。
なんで楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうんだろう。学校だけじゃ全然足りない。もっともっと健太と一緒にいて、もっともっと健太とふれあいたい。

そんな俺の願望が、無意識の内に俺の足を止めさせていた。
急に立ち止まった俺を、健太が不思議そうに見上げてくる。

「キスしたい、健太……」

「……っ」

驚きのあまり、何か言おうとして健太の唇が少し開かれて、でも言葉は出てこなかったのか、そのまま半開きのままになる。
赤くなった目元にはみるみるうちに涙がたまり、こぼれ落ちそうになる寸前、健太の目はそっと閉じられた。

誘われるように、俺は顔を近付けていく。

健太の真っ赤な頬にふれた途端、俺の全身がカーッと熱くなる。
ふれた所から、甘く溶けていくようだ。

健太のかすかな息遣いを肌で感じて、心臓がトクンを跳ね……


傘で周りから見えないのをいいことに、俺達は道の真ん中でキスをした。


ねぇ、健太は気付いているかな?
つきあって最初の頃は俺がキスしたいって言うと、健太は照れてうつむいたまま、俺が促しても中々顔を上げてくれなかったのに。
最近じゃ照れてもちゃんと、こうやって俺を待っていてくれることを。

だからこのまま、梅雨が明けてもいつもより近い、友達なんかじゃない、ちゃんと“恋人の距離”でいられますように。
そんな願いとたっぷりの愛情を込めてキスをしていると、健太の手がおずおずと俺の背中にまわってきたから、梅雨明けより先に、俺はキスの距離を一気に縮めて舌を絡めた。


―終わり―

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