狼の飼い方
1 狼の飼い方
弱い犬ほどよく吠える。っていう言葉があるだろ?
アレって本当だと思う。犬だけじゃなく、ヒトだってそうだ。ケンカに弱いヤツに限ってキャンキャン吠えて、うるさいったらありゃしない。
無視すれば更に吠えてきてうっとうしいし、相手にしたら相手にしたらで向こうが弱すぎてこちらが一方的に暴力をふるっているみたいで胸クソ悪い。
オレっちには周りに暴力をふるって喜ぶ趣味はないからね。かと言って殴られて悦ぶ趣味もないけど。
オレっちの毛並みは黒で、襟足だけ長いいわゆるウルフヘアってヤツに、所々灰色のメッシュが入ってて、瞳は金。笑うとよく尖った犬歯がチャームポイントだ。
元々夜行性だし、よく夜の街をふらふら歩いている。
たまに車のヘッドライトが反射して瞳が光ったりしてると、それがヒトには怖いのか不気味なのかなんなのか、いわゆる不良とかその辺のチンピラなんかによく絡まれる。
だけど瞳も尖った犬歯も生まれつきのものだし、それで因縁つけられても、ほんと、うっとうしいだけだ。
ケンカを売られても面倒くさいからなるべく買わないようにしてるけど、さっきも言ったように殴られて悦ぶ趣味もないし、それなりに一応プライドだってある。
それで降りかかる火の粉を払っているうちに、オレっちの毛並みが黒いせいか?いつの間にか“黒狼”なんて呼ばれて(決してオレっちから名乗ったことはないけどね)、しかもいつのまにかこの辺の街の頭になってたり。
え〜。オレっち基本的に面倒くさがりだから、別に縄張りとか群れとかいらないんだけどな。
一匹狼って言葉があるじゃん。うん。ソレがイイな。
イメージかっこいいし。オレっちたいていのことは自分だけで出来るし。それにオレっち、自分より弱いヤツを守ってやろうなんて殊勝な気持ち、ミジンコ程も持ち合わせてないよ。
だってほら、面倒くさがりだから。
そんなこんなで毎日だらだら過ごしていたオレっちは、今夜もだらだらと夜の街を適当に歩いていた。
ズボンのポケットに小銭がいくつか入っていたから、今夜はゲーセンにでも行こうかな? なんて思っていた所を、頭をオレンジや金に染めて耳にも顔にもピアスをいっぱいつけた(うげー。眉毛のとこのピアスとか、見ているこっちが痛くなりそう…)いかにも不良です!って感じのやんちゃ坊主どもに声をかけられた。
殺気はなかったから、オレっちは素直に足を止める。
「大変っス! 急に隣町のヤツラが大勢で殴りこんで来やがって、今! もう! 倉庫めちゃくちゃなんスよ!」
やんちゃ坊主の一人がツバを飛ばしながら叫んでるけど、関係ないオレっちとしては「へぇ。あーそうー……」としか言いようがない。
「このままじゃ東側は隣町のヤツラに取られるっス! なんとかしてくださいよボス!」
えーだからぁ…… オレっちは一匹狼を目指しているんであって、別に縄張りや群れはいらないんだって。つか、お前らのボスになんかなった覚えはないし。
オレっちが、うーって唸っていると、
「ハイハイ。ボスが殺(ヤ)る気になるまでエンジン遅いのはわかってるっスけど、とにかく今は非常事態なんで、何が何でも来てもらうっス!」
と、やんちゃ坊主どもに両側から腕をガシッと掴まれる。
こうしてわけもわからないうちに、オレっちはやんちゃ坊主どもに腕を引っ張られ、倉庫とやらにつれて行かれた。
つれて行かれた先の倉庫は、やんちゃ坊主どもの言うとおり確かにめちゃくちゃだった。
色取りどりのカラフルな頭をしたやんちゃ坊主どもが、そこらじゅうで殴り合っているし。中にはバットや角材を振り回しているヤツもいて、まさしく乱闘って言葉が相応しい。
雄たけびや呻き声、血の匂いが入り乱れ、ケンカ独特の熱気が辺りに立ち込めている。
「おー。ハデにやっているねー」
基本、自分に関係なければ勝手にやってくれってスタンスのオレっちは、その辺のドラム缶に腰かけると、早速見物と洒落込む。
するとオレっちを引っ張ってきたやんちゃ坊主どもが、焦ったようにわらわらと周りを取り囲んだ。
「だーかーらー! 早くこの場をおさめてくださいってばボスー」
「ほんっと、ボスだけが頼りなんですってー!」
みんなが口々に泣き事を言いながらオレっちの服の裾を引っ張ったり、肩を揺さぶったり、果ては拝んだりしてくるけど、何度も言うようにオレっちには関係ないし。お前らのボスじゃないし。
オレっちは面倒くさくてまたうーうー唸っていると、急に辺りが静かになった。
「……」
さっきまであちこちから聞こえていた雄たけびや呻き声がピタッと止まり、代わりに獲物を狙うようなギラギラとした視線がオレっちに注がれるのを感じる。
やんちゃ坊主どももそれを感じ取ったのか、ゴクリとツバを飲み込んだ。
やがて、血を吸って所々黒く変色した角材を手で弄びながら、一人のスキンヘッドの男がオレっちの方へゆっくりと近づいてくる。
「へぇ。ソイツが噂の“黒狼”なのかよ? どんな厳つい男かと思えば、こんな優男だったとはね」
んー。もしかしてほめられた?
ほめられたのなら、知らないヤツでもちゃんとお礼を言っとくべき?
そう考えたオレっちがお礼を言おうと口を開こうとした時、スキンヘッドの男がいきなりオレっちに向かって角材を振り下ろしてきた。
「ケンカする気のねぇビビリ野郎は、とっととオネンネしちまいな!!」
角材がブン!と空を切る音がして、オレっちの周りにいたやんちゃ坊主どもが思わず目をつむる。
オレっちは自分の方へ角材が振り下ろされるのを見て、頭の中でブチっと何かが切れる音を聞いた。
だって角材だよ!? 角材! あんなの打ち所が悪かったら、大ケガどころか死んじまうっつーの!
…それに何度も言っているように、オレっちには殴られて悦ぶ趣味は、
「……ねぇつってんだろうが! ゴラァァ!!」
オレは振り下ろされた角材を掴んで力ずくで奪い取ると、スキンヘッドの男目掛けて振り下ろした。
「誰がビビリ野郎だって? あ”ぁ!?」
スキンヘッドの男が衝撃で前のめりになったところを、オレは膝でスキンヘッドの男の腹を蹴り上げる。
「ガハッ!」
スキンヘッドの男が血反吐を吐いた。
「ビビリ野郎はテメェだろうが! ガキがイキがってエモノなんて使ってんじゃねぇぞゴラァ!」
オレの蹴り上げで宙に浮いたスキンヘッドの男の頭を掴み、オレは頭突きを喰らわせる。
「オスなら正々堂々、てめぇの牙と爪で戦いやがれ!」
スキンヘッドの男が後ろへ吹っ飛ばされ、そのまま仰向けに倒れた。すかさずマウントを取り、オレはスキンヘッドの男を殴り続ける。
「あ”ぁ!? 聞いてんのかゴラァ! なんとか言えよこのビビリ野郎が! テメェから仕掛けてきたくせに! これぐらいでくたばってんじゃねぇよ! 聞いてんのかっつってんだろ!?」
殴りつけるたびスキンヘッドの男から血飛沫が飛び散るが、オレはかまわず殴っていると、再び辺りがシーンとしているのに気付いた。
「……ス、ボス!」
やんちゃ坊主どもの声が聞こえたような気がして、オレはようやくスキンヘッドの男を殴るのをやめた。
「……ボスってば!」
「あ”?」
「ソイツとっくに気絶してるっス!」
「…あ……」
気絶してたらそりゃ返事は出来ないねぇなんてのんきに考えていたら、いつのまにかあんなに大勢いた不良どもは半分程に減っており、見知った顔ばかりになっていた。
一応騒ぎをおさめたってことで、オレっちはやんちゃ坊主どもに取り囲まれ、やたらキラキラした目で見つめられながらお礼を言われる。
あー ハイハイ。だからオレっちはお前らのボスじゃないからねー……
この後一緒に酒でも飲もうって誘われたけど、酒に興味のないオレっちはやんちゃ坊主どもを振り切ってその場を後にした。
あ〜あ。こんなに返り血を浴びた状態じゃゲーセンにも行けないし、こんなんじゃ今夜はきっとキレイなおねーちゃんに拾ってもらうのは無理だろうなぁ。
夜の街をふらふら歩いていると、不良やチンピラに絡まれることが多いけど、キレイなおねーちゃんに拾ってもらえることも多いのだ。
するとあったかいフロや美味しいエサにありつけるだけでなく、キレイなおねーちゃんと朝まで楽しく遊べるので、一人身で定住していないオレっちにはバンバンザイだ。
それがあるから、夜の街をふらふら歩くのをやめられないっつーのもある。
だけどキレイなおねーちゃんに拾ってもらえないことには、フロはおろかエサにだってありつけないありさまなのだ。
オレっち一応狼の系譜だから、エサの方は2〜3日我慢出来るとして。無駄にケンカに巻き込まれ興奮状態になってしまった今は特に、キレイなおねーちゃんのあたたかい人肌で慰めてほしい。
だってほら、オレっちオオカミだから(笑)
だけど今夜はそれも期待出来そうにない。あぁあ。だから面倒くさいことはイヤなのに。
オレっちは自分の服をつまんで、クンクンと匂いを嗅いでみる。
「…うー……」
染みついた血臭は興奮剤になりこそすれ、キレイなおねーちゃんには遠ざける効果しかなさそうだ。
オレっちがため息をつきながらとぼとぼ歩いていると、突然目の前を、両腕を横に大きく広げたパッと見、美少女な美少年に通せんぼされた。
「……?」
通行のジャマだな、と思ってオレっちが右によけると美少年もこっちにササッと来て、オレっちが左によけると美少年もそっちへササッと来て、また通せんぼをする。
仕方なくオレっちが立ち止まると、美少年は偉そうにふんぞりかえって声を掛けてきた。
「ねぇ、アンタが“黒狼”?」
「そう呼ばれてるけど?」
「ふぅん……?」
美少年がオレっちの頭のてっぺんからつま先までじろじろと値踏みするように見てくるので、オレっちも同じく相手を観察する。
どっかのオボッチャマ学校らしき、なんだか高そうな生地のブレザー。
つか、制服を着てるのにこんな時間までこんな場所をうろうろしてるなんて、ナニ? 大人しそうに見えてこのコも不良なの? 弱そうだけどもしかして新手の不良なの?
髪はウェーブを描いててふわふわとやわらかそうな、ハチミツ色のショート。
くりくりとしたパッチリおめめ。
咬んだらおいしそうな、白いマシュマロのような肌の、パッと見、美少女な美少年。
んー。やっぱりどう見ても不良には見えないなぁ。あ、塾帰りとかかな? なんかオボッチャマっぽいし。
……え。どうして見ただけで少年とわかるかって? だってどんなに可愛くても、匂いがオスだから。
こんなにかわいいのにねー。ヒトって不思議だよねー。
そろそろ返り血が乾いてきて気持ち悪い。
早くどっかでサッパリしたいなぁと、美少年とはあさっての方を見ながらぼんやり考えていると、美少年がおもむろに口を開いた。
「よし! アンタのこと気にいったから、僕が飼ってあげてもいいよ。この僕に飼われるんだから、光栄に思いなよ?」
オレっちより背が低いというのに、美少年は腕を組み、ふんぞりかえってますます偉そうに言う。
「……」
見上げているのにふんぞりかえるって器用なだぁって思っていると、黙っているオレっちに焦れたのか、美少年がオレっちの目の前にビシッと指を突き付ける。
「あぁもう、これならどう!? 三食エサと風呂のグルーミング付き! そして……ペットには十分な運動をサセてあげるけど?……」
美少年はスッとオレっちの腰にしな垂れかかると、オレっちを見上げたままペロリと舌舐めずりをした。
その時の表情がなんとも言えず妖艶で、オレっちは思わずゴクリとツバを飲み込む。
匂いはオスなのに、顔だけは美少女。
今までキレイなおねーちゃんとしか遊ばなかったけど、目の前の美少年となら、遊んでみるのもイイかもしれない。
でも遊ぶにあたって、ひとつだけ気になることがある。
「オレっち“狼”だから、運動量スゴイよ? しかも毎日だよ? こんな細い体で、本当にオレっちと遊べるの?」
オレっちが美少年の細い腰を撫でながら言うと、美少年はフフン、と鼻で笑ってオレっちの膨張している股間を指先でつつっとなぞりあげた。
「じゃあ今から確かめさせてあげる。……どのみち、こんな状態じゃツライだけでしょ?」
オレっちの硬い牙に触れ、美少年の頬がうっすらと赤くなる。美少年の体から発情フェロモンが漂ってきて、オレっちは犬歯を見せつけるようにうっそりと笑う。
「イイぜ……確かめさせてよ、ゴシュジンサマ?」
オレっちの返事に、美少年の顔がパッと花が咲いたように綻んだ。
「そうと決まったらこっち! こっち! 早く僕ん家に行くよ!」
そうしてオレっちはまた腕を引っ張られながら、今度は美少年の家へとつれていかれた
。
賑やかなネオンが、次々と後ろへ流れていく。
時々車のヘッドライトに照らされ、美少年のハチミツ色の髪がチカッと金色に光る。
オレっちよりも背の低い美少年に腕を引っ張られながら人込みの中をすり抜けるように走っているので、オレっちには走りにくいことこの上ないけど、美少年が鼻歌でも歌いそうな程楽しそうにしていたので、まぁいっかと思った。
時々オレっちの方を振り返りながら、美少年が「こっちだよ!」と嬉しそうに叫ぶ。
白いマシュマロのような肌が、走って上気して少し赤くなっているのが、かわいいのと同時になんかエロい。
オレっちは美少年の呼びかけに適当に返事をしながら、頭の中で美少年の裸をいろいろ想像して楽しんでいた。
繁華街から離れるにつれ、人通りも少なくなっていく。やがて見上げても天辺がわからない程高い、いかにも高級そうなマンションの前にたどり着いた時には、すっかり人通りも絶えていた。
つか、今は夜なんだし。これが普通なんだよな。繁華街がおかしいんだよな。繁華街ばっかうろうろしてたから、なんかアレがフツーみたく思っちゃってたけど。
……ってまぁ、それは別にどうでもいいんだけど。
オレっちはさっきから目の前の高層マンションを見上げていた為、首がスッゲー痛い。マジ痛い。
だってマジスゲーんだって。真下から見上げているせいもあるだろうけど、マジ天辺が空と同化してるっつーか。一番上がわかんないの。
「どう? スゴイでしょ、僕ん家! 僕のパパ、会社をいくつも経営している敏腕社長なんだから!」
「おー スゴイねー… オレっち迷子になりそう」
「もう! 今日からはアンタの家でもあるんだから、しっかり覚えてよね!」
美少年がほっぺをぷくっと膨らませてオレっちを睨みつけてくる。
「あー… うん。ハイ」
「ほら! ボケッとしてないで行くよ!」
美少年はまたオレっちの腕を引っ張ると、エントランスへと入っていった。
……エントランスっつーか、ホテルのロビー?
マジでホテルの受付みたいな場所と、待ち合わせとかに使えそうなソファーとローテーブルが数組。
そして受付みたいな場所と向かいあうようにエレベーターが3基ある。
受付みたいな場所にいる、スーツをビシッと着こなした初老のオジサマが美少年の姿を見て、「お帰りなさいませ、三条様」とお辞儀をしている。
あー… こーゆー高級マンションに付き物のコンシェルジュってヤツ?
前にキレイなおねーちゃんの中の誰かが、私もそんな高級マンションに住んでみたーいとか何とか言ってたような気がする。
「あ、ただいま! 坂口さん」
美少年はにこっと笑って会釈した。
基本偉そうなのに、その辺はちゃんと挨拶するんだ。さすがはオボッチャマってヤツ?
ハッ! この流れから行くと、お金持ちのお約束、最上階のフロアまるまる全部が美少年の家ってこと!?
お金持ちスゲー! なんかよくわかんないけどなんかスゲー!
つか、実際にスゴイのは美少年じゃなくて、美少年のパパなんだけど、お金持ちスゲー!
オレっちがなんかよくわかんないことに興奮していると、やがてエレベーターが下りてきたので、二人で素早く乗り込む。
美少年はよくある階数ボタンを無視すると、その下のパネルを開けてテンキーみたいな部分で素早く4ケタの数字を押した。
おー、オレっちの予想当たり?
「ねーねー、もしかして一番上がゴシュジンサマの家なの?」
なんとなく少しウキウキしてそう聞くと、美少年は無表情でプルプルと首を横に振った。
「フン。違うよ。一番上はパパの家」
「ふーん…… あ、じゃあその下?」
「フン。その下はママと愛人の家」
「ふーん…… って、ちょっ! 今サラッとダークなこと言わなかった!?」
「更にその下、上から三番目のフロア全部が僕の家」
「…って、無視かよ!」
オレっちは美少年に対して思わず、キレイなおねーちゃん家のTVで覚えた裏拳ツッコミを入れる。
「……別に。“お金持ち”の家じゃよくあることだろ? 仕事が恋人のパパ。そんなパパに愛想を尽かして愛人を作っておきながら、パパのお金から離れられないママ。そして産むだけ産んで、放置されているコドモ。……フン。よくあることサ……」
こんな時でも美少年の偉そうな態度は変わらなくて……
だけどさっきまでのくるくる変わってた愛らしい表情はなくて、なんか仮面みたいに無表情で……
「…みんな好き勝手にしてるんだから、僕だって好き勝手にしてもいいでしょ。僕を見ないパパもママもいらない。僕は、僕だけを見てくれるペットを飼うんだから……!」
美少年は少しうつむきながら、親指の爪をガジガジ咬んでいた。
偉そうな態度は変わらないはずなのに、その少し丸まった背中がなんだか切なくて、オレっちは思わず美少年を後ろから抱き締めていた。
ねぇ、もしかしてゴシュジンサマは寂しかったの?
こんなキレイで広いところが家なのに、血がつながっている家族がいても心は一人ぼっちで……
だからいつも一人でふらふらしているオレっちを見て、同じように寂しいんじゃないかと思って、拾ってくれたの?
オレっち面倒くさがりだし“一匹狼”を目指しているから、縄張りや群れはいらないという気持ちに変わりはないし。オレっちより弱いヤツを守ってやろうなんて気もサラサラない。
だけど。
ゴシュジンサマは違う。
確かに見るからにケンカは弱そうだけど、オレっちと違って、(態度は偉そうだけど)他人を思いやる優しさを持っている、本当は“強い”ゴシュジンサマ。
例えどんなにケンカが強くても、面倒くさいからって縄張りや群れを持つオスとしての責任から逃れていたオレっちとは大違いだ。
抱きしめた腕の中から、ゴシュジンサマの体温がじんわりと伝わってきて、なんだか胸の中までほかほかとあたたかくなってくる。
オレっちが抱きしめたことでゴシュジンサマも少し落ち着いたのか、いつのまにか爪をガジガジ咬むことをやめていた。
イイぜ? オレっち今日からゴシュジンサマのペットだもんね。ペットならペットらしく、ゴシュジンサマの寂しさを、オレっちが全力で慰めてあげるよ。
だから……
「……もう我慢出来ない……」
オレっちはゴシュジンサマのうなじをぺろりと舐めあげると、オレっちの膨張している牙をゴシュジンサマのかわいいお尻にカクカクとこすりつけた。
途端、ゴシュジンサマに思いっきり足を踏んづけられる。
「ギャン!」
「この駄犬が! 待ても出来ないの!?」
ゴシュジンサマはやっぱりゴシュジンサマで、さっきまでの仮面みたいな無表情はどこへやら。オレっちより背が低いというのに、冷たい目でオレっちを見下ろしてきた。
ほんとゴシュジンサマって器用だよね。オレっちより背が低いのに見下ろすなんてさ。なんてオレっちが妙なところで感心していると、チン、と軽快な音がしてエレベーターのドアが開く。
さすがフロアまるまる自分の家と言っていただけあって、エレベーターと部屋は直通になっていた。
エレベーターのテンキーみたいな部分で押した数字が、セキュリティとカギを兼ねているのか。ふむふむ。
「おー… 部屋もなんかスゲー…」
だだっ広いリビングは一面ガラス張りになっていて、夜景が一望出来る。
まっ白い壁に天井、ナチュラルカラーのフローリングと同じ色のシンプルな家具で統一され、全体的にスッキリしている。……つーか、スッキリしすぎてて、反対に生活感ないよね、この部屋。つか家自体。
オレっちがボケッとしてると、腕の中でゴソゴソと器用に向きを変えたゴシュジンサマにほっぺをつねられた。
「もう! アンタが見とれるのはご主人様であるこの僕だけでいいの!」
「ひゃい……」
そのままほっぺをつねられたまま、寝室へとつれていかれる。
寝室にはダブルサイズのベッドと勉強机とクローゼット。ここも全体的にスッキリしているけど、リビングよりはよっぽど生活感のある場所と使いこまれている参考書を見て、オレっちはなぜか少しホッとした。
良かった。ゴシュジンサマ、ちゃんと学生してんだね。
オレッチがぼんやりと考え事をしていると、ほっぺたをつねる指に力が込められた。
ほんとこのゴシュジンサマは容赦ねぇな。
……でも、やんちゃ坊主どもは親しげに声をかけてくれても、やっぱりどこかオレっちとは一線を引いて接してたから、こんなふうに“対等”に接してくれるのはちょっと嬉しかったり。
…まぁ、ゴシュジンサマの場合は対等つーか、上からなんだけど。
んー。ま、いっか。オレっち今日からゴシュジンサマのペットなんだし。
ベッドの前に着き、オレっちはようやくほっぺたつねりから解放される。ひりひりしてるほっぺを撫でながら、ふと疑問に思った。
「ところでさー、ゴシュジンサマってなんて名前?」
「さっき下で“三条様”って呼ばれてたでしょ」
そんなつい最近のことも忘れたの? と言わんばかりに、美少年が冷たい目でオレっちを見てくる。
「いや、あの、なんかスンマセン。…じゃなくて、下の名前、」
「あぁ……」
オレっちのしどろもどろな返事に、美少年はようやく納得してくれた。
「僕の名前は美樹。でもアンタはペットなんだから、僕のことはこれからもご主人様と呼ぶように! ていうか、いつまでもアンタてのも呼びにくいし。“黒狼”なんて気取っちゃった名前じゃなくて、アンタの名前はないの?」
「あー… 名前ねぇ。うーん。誰も本当の名前呼んでくれないから、忘れちゃったー。みたいな? テヘペロッ☆」
「ハァ!? バッカじゃないの?」
オレっちが思わずペコちゃんみたいにペロッと舌を出すと、ミキはくりくりのパッチリお目めをこれでもかと言う程見開いて、素っ頓狂な声を出した。
オレっちは突然の大声よりも、ミキのくりくりお目めが顔からこぼれ落ちそうで、それにビビる。
いや、オレっちにだってちゃんと親からもらった名前があったはずなんだけどね。兄弟が多かったから、小さい子どもは皆まとめてチビ達って呼ばれていたし。
成熟してからは「とっとと自分の群れを作りやがれ!」って親に蹴り出されて。
群れを出て一人夜の街をフラフラするようになってからは、周りが好き勝手にオレっちを呼ぶもんだから、オレっちはすっかり自分の名前を忘れてしまっていたのだ。
…って、うわー。記憶喪失でもないのに自分で自分の名前忘れるとか、オレっちてばイタイヤツじゃん。
今明かされる衝撃の事実(←?)に胸が痛む。あー… なんかココロが寂しい……
そっかー。自分じゃ気付かなかったけど、オレっち寂しいヤツだったんだねー。ゴシュジンサマの勘は当たっていたよー。
なんて遠くを見ながらオレっちが現実逃避をしていると、ミキがやれやれとため息をついた。
「ったく。バカなペットには、僕みたいにしっかりしたご主人様がついてないとね。フン。いいよ、アンタの名前は、ご主人様であるこの僕が付けてあげる」
そう言うと、ミキは腕を組んでしばらく考える素振りを見せた後、またオレっちの前にビシッと指を突き付けてきた。
おー、ゴシュジンサマのこの姿、なんかデジャヴュ。
「決めた! アンタの名前は“黒狼”から取ってそれらしく、ヴォルフガング・クラヴィーア・ホーエンシュヴァンガウ・ノイシュバンシュタイン・フリードリヒ2世・シュレージエン・ドレスデン・ポツダム・グレイハウンド・フォン・ケーニヒスベルク! 長いから略してポチ! アンタは今日からポチだからね!」
すげー! この人一息で言いきったよ! って、いやいやいや。
ミキがフフン、と顔を上気させて偉そうに踏ん反りかえるけど。
「ちょっ! 略してポチって、ポチかすってもないし! つか、なんかちょっとカッコよさげなこと言ってるけど、ぶっちゃけソレ知ってる単語を並べてるだけだよね!? ポチと全然関係なくね? つか、ポチって犬の名前じゃん! オレっち一応“狼”なんだけど……」
「あ〜あ、ポチの名前一生懸命考えてあげたから、僕疲れちゃった」
「…って、無視かよ!」
あ、なんかこのやりとりもデジャヴュ。
ミキはうーん、と軽く伸びをすると、ベッドに腰掛け、オレっちを見つめたまま、ゆっくりとブレザーのボタンをひとつひとつ外していった。
ミキの体からまた発情フェロモンが漂ってきて、オレっちはゴクリとツバを飲み込む。
忘れかけていた劣情にじわりと火がついて、欲望の炎がチロチロと体の内側を舐めあげる。
少しおさまりかけていたオレっちの牙が勢いを取り戻し、ズボンにテントを張った。
そう言えばさっきからずっとお預けを喰らっているわけで、正直ツライ。
オレっちがチラ、とミキへ視線で訴えると、ミキはにっこり笑ってオレっちの方へ手を伸ばしてきた。
だからオレっちは着ていたカットソーを脱ぎ捨てて上半身裸になると、誘われるまま、ミキの方へフラフラと近づいていく。
今しっぽがあったら、間違いなく嬉しさでブンブンと振り切れているに違いない。
だってオレっちは、ゴシュジンサマのペットだから。
ミキの前に立つと、ミキは頬をうっすらと赤く染めながらまた鼻でフン、と笑って、オレっちの体に触れる。
ミキの手が直接オレっちの体に触れている。そのことに、ただどうしようもなく興奮したので、オレっちはミキがにっこり笑っているのをいいことに、少し屈んでミキの顔中にキスを落とした。
「こら、ポチ。くすぐったいてば……」
ヤベー。スゲーやわらかい。マジでマシュマロみたいな肌をしてる。
オレっちは夢中になって、ミキのやわらかくてふっくらとしている唇をはむはむと甘噛みした。
ミキはくすぐったいのか、くすくすと笑いながらオレっちの胸に手をあて押し返そうとする。決して本気ではない、戯れの延長のようなそれすらも、オレっちを煽るだけで。
下半身に集中してたはずの熱の一部が頭にのぼり、オレっちはクラリと眩暈を覚えた。
オレっちがミキの唇をぺろりと舐めると、ミキは唇をあけ、オレっちの舌を優しく迎え入れてくれる。……どころか、自ら舌を絡め、オレっちを貪ってきた。
「…んっ……ふぁ…… はふ……」
積極的なゴシュジンサマの姿に、オレっちの牙は更に硬くなる。早く入れたくてたまんねー。
オレっちはミキの脚の間に体を滑りこませると、キスをしながら、そのまま後ろへ押し倒そうとした。
「やっ…だ、だめぇ……んん……っ」
ミキが可愛い声で何か言っているか、興奮しているオレっちの耳には届かない。
肌も唇もやわらかかったけど、舌もやわらかくて。ミキの全身からなんかお菓子みたいに甘い、イイ匂いがしてて。おまけにこんなかわいい声を聞かされては、オレっち煽られまくりだ。
「…まってぇ……んちゅ……だめ、てばぁ……」
ミキの舌や口内を思う存分貪りながら、押し倒す為に更に力を入れようとした時、ミキに頭をポカリと叩かれた。
「…ってぇ!」
「ダメって言ってるでしょ! この駄犬が!」
オレっちは痛さのあまり、思わず涙目になってうーっと唸りながら叩かれた所を押さえる。
え? え? なんでダメなの?
オレっちそんなに下手だった!?
いやいやいや、ゴシュジンサマだって感じてたでしょ?
なんでダメなの?
なにがダメだったの?
いろんな思いと言葉がオレっちの中でぐるぐると渦巻き、それがそのままガルル…と低い唸り声になる。
そんなオレっちを見て、ミキはまたオレっちの頭をペシッと叩いてきた。でも今度は痛くない……
オレっちはきょとんとしてミキを見上げる。
「バッカじゃないの? だからポチは駄犬なんだよ」
バカって言っているのに、ミキは笑顔を浮かべていて、オレっちは嬉しいようなそうでないような、複雑な気持ちになった。
「もう! 僕は明日も学校があるの。だからこのままシたら、制服がしわくちゃになっちゃうでしょ?」
ようやくミキの言わんとしていることがオレっちにも伝わってきて、オレっちの顔がパッと明るくなる。
「さ、わかったなら早く服を脱がして。ご主人様であるこの僕を待たせるつもり?」
ミキが鼻でフン、と笑いながら挑発的な視線を寄越すもんだから、オレっちはまたキスをしながら、喜び勇んでミキの服を脱がしていった。
あ、勿論、しわくちゃにならないよう、制服はイスの背もたれに掛けていく。本当はちゃんとハンガーに掛けた方がいいんだろうけど、今のオレっちにそんな余裕はなかった。
早くミキの中に入りたいと、オレっちの牙がヨダレ垂らして訴えているのだ。
白いブラウスよりも白いミキの肌が晒されて、オレっちは噛みつきたい衝動に駆られる。だけどダメだ。オレっちのこんなに尖った犬歯で噛みつけば、間違いなく血が流れてしまうだろう。
ミキを傷つけたいわけじゃなから、ここはグッとこらえる。
欲しいのはゴシュジンサマの強気な視線と、甘い嬌声。
突き立てたいのはヨダレを垂らして待ち焦がれているオレっちの牙。
ミキの柔らかい肉をぐちゃぐちゃに咀嚼して、ドロドロに溶かしてしまいたい。
そう思いながら、次々にミキを裸にしていく。
ミキは大人しく脱がされていくが、オレっちの手がミキに触れる度、笑い声とも吐息ともつかないかわいい声をあげるものだから、オレっちはギリギリの所でどうにか理性を保っているのだった。
脱がせやすいようにミキの脚の間に跪き、下着ごとズボンを引き抜くと、目の前にミキのかわいいペニスがぷるん、と現れる。
キスで感じたのか、鈴口から透明な蜜が滲んでいた。
ミキの体に合わせたコンパクトなサイズながら、それなりに自己主張をしている凶悪なまでにかわいいペニスから、オレっちは視線を外せない。
「…そんなに、見ないでよ……」
オレっちがミキのペニスをガン見していると、ミキは少し恥じらうように、もじ、と太股をすり合わせる。
誘うようにぷるん、と揺れたミキのペニスを見て、頭の中で何かがブチッと切れる音を聞いた。
「それで隠したつもりかよ。大事な所が丸見えだぜ?」
オレはミキの太股に手を掛けると、ガバッと勢いよく左右に広げる。
「やっ!」
オレの雰囲気が変わったことを感じ取ったのか、ミキの体がピクッと震えた。
しゃべれば息がかかる程ミキの股間に顔を近づけて、オレはミキのペニスを指で弾く。
「誘い慣れてるわりにキレイな色をしてるじゃねぇか。ココも、その下も……」
「ひゃう…そこ、で……しゃべんなぃで……」
オレの話かける息という些細な刺激にも感じてしまうのか、ミキは口元に手をやり、耐えようとしていた。
「…んだよ。今更恥ずかしがってんじゃねぇよ。ゴシュジンサマから誘ってきたんだろ? もっと乱れてみせろよ……」
オレは舌なめずりをすると、目の前にあるミキのペニスにむしゃぶりついた。
ミキのペニスは体に合わせて小さめなので、根元まで簡単にオレの口の中に飲み込まれる。
「んあぁっ……あぁ……っ」
全てを飲み込んだまま舌を絡めてやると、先端からまた蜜が滲んできた。
ヂュルヂュル音を立てて吸ってやると、どんどん蜜が溢れ、それにつれてミキの声に甘いものが混じる。
「あぁっ…んっ…… イイ…… イイよぉ……っ」
チラ、とミキの顔を見ると、ミキは顔を真っ赤に染め、口元にやった自分の指すらなめだしそうな、ヤラしい顔をしていた。
それに気をよくしたオレは、更に激しく水音を立て、ミキのペニスをしゃぶる。
「んやぁぁっ はげしぃ…… でちゃうよ! …でちゃうぅ……っ」
鈴口が酸素を求めるようにパクパクと開閉し、ミキの限界が近いことを知る。
ミキのペニスが張り詰め今にも弾けそうな瞬間、オレは根元をぎゅっと握りしめ、しゃぶるのをやめた。
「やぁあぁぁ…… なんで?……」
あと少しというところで根元をせき止められ、ミキが目に涙を浮かべオレを非難してくる。思わずといった感じで、オレの手をほどこうとミキの手が伸びてくるが、ミキの力でどうこう出来る程やわなオレの腕力じゃない。
結局、いたずらにペニスに刺激を与えるだけとなってしまい、ミキの顔が切なげに歪む。
「ペニスだけじゃ物足りないんだろ? アナルもヒクヒクさせて…… ほんっと、ゴシュジンサマは誘い上手だよなぁ!?」
オレはニヤリと笑うと、目の前で物欲しげにヒクヒクとしているミキのアナルに舌を這わせた。
たっぷりとオレの唾液を流し、少しずつ潤していく。舌を尖らせ出し入れすると、チュプチュプとかわいい水音がした。
「あぁっ…… あっ あっ……」
根元をせき止められたままの新たな刺激に、ミキの体がビクビク震えた。
ペニスからオレの手をほどくのはもう諦めたのか、股間に顔をうめているオレの頭に、ミキの手が伸ばされる。
オレの頭を向こうへ押しやろうとするような素振りを見せるものの、もう力は入らないのか、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜるだけに終わった。
指先が地肌をくすぐる感触が心地よい。
ミキの体の力が程良く抜けてきた頃を見計らって、オレは中指を舐めて濡らすと、ミキのアナルに突き刺した。
「ひゃうっ」
「ハッ。指一本じゃ足りないってか? まだろくにほぐしてないのに、ズブズブ飲み込んでいくぜ?」
付け根まで入れた中指をゆっくりと抜き差しする。
ゆるやかな刺激がもどかしいのか、ミキが焦れたようにイヤイヤと首を振った。
「ちが……んっ……」
「へぇ? ナニが違うって? こっちは随分悦んでいるみたいだがな、ゴシュジンサマよぉ」
オレは指を増やすと、今度は激しく抜き差しする。
アナルからもヌチュヌチュとヤらしい水音がして、挿入時さながらのミキの乱れっぷりに、オレはニヤリとほくそ笑んだ。
「やぁっ…… あっ……あん……やぅ……」
指を抜き差しするたび、指の動きに合わせてミキの口からもかわいい声が漏れる。
やがてオレの指がミキの中のある一点をかすめた時、ミキは一際高い嬌声をあげて、ビクビクと大きく背を反らせた。
「あぁぁ……っ!」
オレの手の中のペニスもビクン、と震え、アナルがぎゅうぎゅう指を締め付けてきて、オレはミキがイッたことを知る。
ドライでイッたせいか、ミキの目はトロン、と溶け、ハッハッと犬みたいに短い息を繰り返していた。
だらしなくあいた口から覗く、赤い舌がたまらなくイヤらしい。
「ひとりだけで楽しむなんでズルイぜ、ゴシュジンサマ。ペットとは一緒に遊ぶもんだろ?」
「いっしょに?……」
「そう、“一緒”に……」
オレが笑いながら言うと、頭がぼーっとしているらしいミキはしばらく首を傾げていたが、やがてオレの言った何かの言葉が気に入ったのか、ふにゃりと笑った。
「……うん。ポチといっしょぉ……」
オレは言質は取ったとばかりにミキのアナルから指を引き抜くと、急いで下半身も裸になる。
まだ短い息を繰り返しているミキはぽや〜とオレの様子を見ていたが、股間で隆々と聳えている赤黒いオレの牙を見て、怯えた表情を浮かべた。
「やっ…むり……そんなおっきぃの…… はいんなぃ……っ」
目にじわりと涙を浮かべ後ずさろうとするが、オレにペニスを握られている為、身をよじらせるだけに終わる。
だから涙目でそんなかわいいこと言っても、オレを煽るだけだっつーの。
「ゴシュジンサマがオレと“一緒”って言ったんだから、“一緒”に楽しイイことしようぜ!……っと」
オレは舌なめずりをすると、ミキの腰を掴み、一気に牙を突き刺した。
「やあぁぁぁっ!!」
牙を突き刺すと同時にミキのペニスから手を放したもんだから、ミキのかわいいペニスから精液がビュクッと飛び散る。
今までせき止めていた分、勢い余ってミキの顔にまで精液が飛んでいた。
自分の顔にまで掛けるとか、どんだけかわいいんだよ、ゴシュジンサマは。
弱いヤツに興味はないが、かわいいヤツなら話は別だ。
ミキはイッた衝撃でくたりと後ろへ倒れこんだが、ペニスからはまだ射精が続いていた。ミキのお腹に、白くてドロリとしたイヤらしい水たまりが出来る。
「オラ、ボケッとしてんなよ、ゴシュジンサマ。イくぞ」
オレは両手でしっかりミキの腰を掴むと、存分にミキを貪り始める。
オレが牙を突き立てる度、ミキのペニスからはまたとろとろと精液がこぼれた。
「…んやぁ…まだイッてるのにぃ……」
「オレはまだイッてないんだよ」
そう言いつつオレはミキのアナルにガツガツ牙を突き立てるが、ミキのアナルがギュウギュウ締め付けてくるので、オレがイクのも時間の問題だろう。
ゴシュジンサマ思いのオレは、もっと楽しんでもらおうと、ミキのペニスに手を伸ばした。
精液まみれでぐしょぐしょになっているペニスをしごき、先端を指先でぐりぐり弄ると、更にイイ声でミキが鳴く。
「やだぁっ……あぁんっ だめぇ、おかしくなっちゃうぅぅ……っ」
ミキの体がビクビクとふるえ、また限界が近いことを知る。
ペニスからとろとろとこぼれている精液がアナルまで滴り、ミキは自分の精液でどこもかしこもぐちゃぐちゃのドロドロになっていた。
追い打ちを掛けるように、オレは腰の動きを早める。
「あっ…… あぁあ、あ、あん あぁっ… あぁっ」
感じすぎているのか、段々ミキの焦点がぼやけてきた。
腰の動きに合わせてとろとろこぼれる精液のように、喘ぎ声だけがかわいい口からもれる。
しばらくガツガツとミキのアナルに牙を突き立てた後、オレは最奥目掛けて射精した。
オレの出した精液にすら感じたのか、ミキは最後の一滴まで絞り取るかのように締め付けながらイッた。
「あぁ、あっ、あっ、あっ、あぁっ… あっ あぁああぁぁぁっ!……」
ミキの嬌声が最後になるにつれ、段々とか細くなってくる。そして全身からくたりと力が抜け、ミキの瞳が閉じられた。
「…かわいかったぜ、ゴシュジンサマ…… っておい、ゴシュジンサマ!?」
ミキが意識を飛ばしたらしいのを見て、オレっちはハッと我に返る。オレっちは慌ててミキの頬をぺちぺちと軽く叩いた。
(ヤバ! オレっちヤらかしちゃった感じ!?)
慌ててミキをベッドにきちんと寝かせ、胸元に耳をあてミキの呼吸を確認した。シた後で呼吸は乱れているが、脈はしっかりある。
(……よかった。気を失っているだけだ……)
オレっちはほっと胸を撫でおろすと、タオルを求めてバスルームへ行った。
タオルを軽く濡らし、ミキの体をそっと拭いていく。
拭いている間に少しは呼吸が落ち着いてきたのか、ミキの顔に穏やかな表情が浮かんでいた。
オレっちは安心して、自分の体もササッと拭いた。
眠っているミキの顔はあどけない。
いつもの強気なミキもかわいいけど、あどけないミキもかわいい。
かわいいと言えば、さっきまでの感じまくっているミキも、とてつもなくかわいかった。
オレっちはさっきまでのゴシュジンサマとの楽しイイことを思い出して、にへらっと笑う。途端、オレっちの牙がまた反応しそうになって、オレっちは頭をブンブンと振って、かわいくてヤラしいミキの姿を頭から追い出した。
(傷つけたくないとか言っておきながら、早速自分のヨクボーに負けちゃってるじゃん。うわーん。オレっちのバカバカー)
オレっちが自分で自分の頭をポカポカ叩いていると、騒がしい雰囲気を感じたのか、ミキが寝返りを打つ。
「ん…… ぽちぃ……」
かわいい寝言と何かを探すように伸ばされたミキの手を見て、オレっちの顔はにへらっとまただらしなく緩んだ。
いそいそとシーツの中に潜りこみ、ミキを抱き枕のようにギュッと抱きしめる。
「ん……」
するとミキが無意識にオレっちの胸元にすりよってきたもんだから、オレっちは嬉しくなって、ミキの頭にぐりぐりと頬ずりをした。
「ゴシュジンサマかわいい!」
「んん……」
オレっちのぐりぐりする力が強すぎたのか、おだやかな表情だったはずのミキの眉間に皺がよる。
(っと、ヤベー。おこしちゃうとこだった……)
オレっちは隙間が出来ない程度に力を緩め、ミキを抱きしめ直した。
ミキのかわいい寝顔を見ながら、オレっちはつらつらと考える。
オレっちの自分でも気づいてなかった寂しさを見抜いてくれたゴシュジンサマだから、今度はオレっちがこんな広い部屋のスキマなんかに負けないぐらいに、ゴシュジンサマの寂しさをうめてあげる。
それでも耐え切れなくなったら、オレっちに言って。そしたらオレっちがここから連れ出してあげるからからね。ゴシュジンサマがいてくれるなら、世界中のどこだってオレっち達の縄張りになるから。
オレっちは眠っているミキにいっぱいキスの雨を降らせると、何も食べてないのになんだかとても満たされた気分になって、一緒に眠りについた。
翌日、学校を休むはめになったミキに、オレっちは裸のまま床に正座をさせられて、延々と説教をくらったのだった。
―終わり―
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恋人の距離
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