緑の芝生に、真っ青な空。平面から見上げる空は普段垂直に見上げる世界とはまるで違う。芥川慈郎は知っていた。空に浮かぶ雲が思っているより早く流れていくことを。
 


「ジローくん」

そしてまた、真実を知る少女が一人。芥川慈郎は知っていた。彼女が自分と同じであることを。
柔らかく吹く風に目を細め、顔を横に向ける。まだ青々しい草花たちが重なり合って音がした。そのたびに鼻を掠める香りが、彼は好きだった。




芥川慈郎は知っていた。だからこそ少女の言葉に返すことはなかった。悲しそうに目元を下げた彼は、込み上げてくる涙を堪えようと上を向いた。
そこには、相変わらず遠い空。泣けてくるほどに、青い空。手を伸ばしたって届かない。それはいくら背が伸びようと変わらない、悲しい事実。





「名前、もう心配しなくてEよ」

そんな風に呟けば、にこにこと笑う少女は少し驚いた顔をしてからゆっくりと慈郎に微笑みかけた。瞬きを一つ。その間に、少女は姿を消した。
慈郎はお腹の上に組んでいた手を、腕を、ゆっくり顔に置く。彼が鼻を啜る理由をもうだれも知らない。










「芥川先輩、またですか」

「まあ、そっとしてやり。今日くらい」

「今日くらい?」

「あー…、今日はな、ジローの幼なじみの命日やねん。丁度一年経ったんやなあ」

「日吉と長太郎はまだあん時、幼等部だっけか」

「せやな、…名前ちゃんが亡くなったばっかしん時はえらい大変やったんやで。練習に来んようになっただけやない、食事も取らんようになった」


忍足は空を見つめる。つられるように青い空を見上げた面々は、目を見張る。気付かなかった。今日はこんなに晴れていただろうか。雲一つない、快晴だっただろうか。


「せや、名前ちゃんが亡くなったんもこんな晴れた日やったなあ。太陽みたいに笑う子やったから、もしかしたらジローに会いに来とるんかもしれへん」


忍足は雲一つないその空に笑みを零す。


「ジローは幼なじみ言うとったけど、なあ」











芥川慈郎は知っていた。彼女がもうこの世にいないことを。あの高くて遠い空の向こうに行ってしまったことを。
空を見上げると、いつでも名前に会える気がした。だから空ばかりみつめていた。

けど、名前はずっと隣に居たんだ。悲しんでばかりいる俺に、空ばかり見つめる俺に、ずっと語りかけていたんだ。

「もっと早くに気付けば良かったC」

そしたら、名前にもっと早く笑いかけてたのに。



「ジローくん」

大好きだって言えたのに。


Against Wind/芥川慈郎
20120321 杏里

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