うちの隣におる遠山金太郎君は、力持ちで身軽でテニスが大好きな男の子。


体が弱くてあんま授業に出れへんかったせいで、一年生は二回目。やっと病院の先生から許可を貰って学校に戻ってきたのはええものの、知らん子ばかりのその空間は酷く居心地の悪いもんやった。たった一学年違うだけでこない差を感じるんは、共有した時間が無いからやろか。かといって、元居た学年に親しみを感じるかと言えば首を横に振ってしまう。
全くと言っていいほど、周囲と関係を築く暇なく学校から姿を消していたうちは、好奇心の対象になりはすれど、あくまでそこまでであって、それ以上でもなかったらしい。



「ワイ、遠山金太郎言うんや、あんじょうよろしゅう!」

そんな私に話しかけてきたのが、金ちゃんやった。



金ちゃんは明るくて素直でクラスのムードメーカー。クリクリした目に派手な赤髪、学ランの中に見えるヒョウ柄のTシャツ。授業中はいつもダルそうに「あー、早くテニスしたいわー」とぼやく、ちょっと変わった、テニスに全てを打ち込む男の子。


「テニスはおもろいでー!仰山つっよい奴らがおってな!」

いつもの休み時間、興奮気味に語り始めた金ちゃん。うちはニコニコしながらその話を聞いていた。


「金ちゃんほんまテニス上手いんやで、苗字さんにも見せたりたいわー」

「せや、今度試合見に来いや!ワイがとっておきの技見せたる!」

金ちゃんがテニスについて熱くなるのはいつものことで、同じクラスのテニス部の子があたしの肩をポンポンと叩きながら提案する。

「うち、テニス全然ルール知らへんし、ええの?」

「あったり前や!」

「苗字さんが来よったら金ちゃんも絶好調やろ、なあ?」

「せやせや!名前が退屈せえへんようごっつおもろい試合したる!」



金ちゃんはうちにとっては大切な大切なお友達。あの日から、金ちゃんはずっと気にかけてくれとった。ドクターストップのせいで体育に参加できへんのを知った金ちゃんは、休憩時間になると必ずあたしんとこに来て、お日様顔負けの笑顔で話しかけてくれる。試合中は退屈せえへんようにアクロバティックなバスケをしたり、みんなに馴染めへんうちを話題の中心に引っ張り込んでくれたお陰で沢山お友達が出来た。


「金ちゃん金ちゃん」

「ん?どないしたん名前」

「ついも、おおきに」

「何言ってん、名前らしくないわあ」

「失礼やな、うちかて感謝の心くらい持っとるわ。それにな、」


金ちゃん、うちにとってあんたは、かけがえのない友達やで。



そう言うと、あの笑顔ばかりの金ちゃんがピシリと固まって。うちは慌てて金ちゃんを覗き込んだ。あかん、もしかして金ちゃんはうちのこと友達や思うとらんかったんやろか。せやな、うちみたいなん、何もでけへん女、嫌やんな。
金ちゃんは本当は私とお友達でいる気なんて、なかったんかもしれへん。ただのクラスの中にいる、可哀想なうちを気紛れに相手して。そんな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え。金ちゃんがそんな人じゃないと信じたいのに、視界が温かい塩水に覆われていく。すると、急に顔を上げた彼と目が合ったときは既に、

「わい、名前と友達はいやや」


私は急降下していた。


「そか、ごめんな、嫌、やったよな…うちもっと早ように気付くべきやった」

「な、名前何で」

「金ちゃんにもう迷惑かけへんから、」

「ちゃう!勘違いせえへんといてえな、名前と友達が嫌なんやなくて、友達のままが嫌やねん!わい、名前が大好きや。せやから友達のままは満足できへん!こないな気持ち、テニスしとるとき以外感じたことあらへん、それともちょおっと違う気もするんやけどな、とにかく、名前が好きや!」

一気にまくし立てた金ちゃんにうちは思わず目を丸くする。途端に急上昇する体、まるでジェットコースターみたいや。まあ、乗ったことあらへんけど。金ちゃんは頬を染めながら満面の笑みで言った。彼はいつだってストレート。

「うちも、金ちゃん大好き」





0212が誕生日だった
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20120318杏里

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