ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく。

藍色、黒い海、しょっぱい、深海。


温かくて眩しくて、透き通る銀色がまぶしくて、眩しくて。
昼も夜もないこの深海にあなたはずぶ濡れになるのを承知で飛び込んできた。
こんな深さまで、息なんて続かない癖に。何度も何度も酸素を肺に満たし、潜る。そして馬鹿みたいに手を伸ばすんだ。





深い深い深海に落ちていく私の瞳からしょっぱい液体が浮かぶ。皮肉なことに、この海と涙の味は同じなのだ。

「待っとれ、絶対、絶対に引き上げちゃる」

やめて、だなんて伝えるすべなんて無くて。深い深い深海は私を腐食していく。こんな醜い私に、貴方が触れるだなんて。



思わず届きそうだった指先を、絡みそうだった指先を解いた。もう、放っておいてよ。








馬鹿みたいに深くまで潜った彼は、苦しげに藻掻いた。酸素が私と同じように彼の口から漏れていく。

このままでは、彼は。

自分から突き放した癖に、私はとんだ傲慢で彼を愛してしまっていたのだった。


「まさは、る…」

君への想いは、掻き消せたのだろうか。出来るはずなんてないのに、分かりきっていたのに。
藻掻いて動かなくなった彼は私の隣まで沈んできた。ああ、あ、何て、哀れな。哀れな、哀れな愛しい雅治。愛しくて、ゆっくりと沈む雅治を、海の藻屑になる前にやんわりと抱きしめた。
だけど、腕が酷く熱く感じた。彼の腕が私の腕を掴んでいる?




「俺もお前さんとお揃いじゃ」

こうしたら、俺も此処に来れる、なんて呟いた。あああ、ああ、熱い、熱い。触れられた腕が、唇が燃えるように熱い。


「じゃから、泣かんで」


ぐんっと引き上げられる感覚。気付いたら、水面はすぐそこだった。



BGM/深海少女
20111105 杏里

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