※千歳が一年の時に転校してきている


千歳くんはびっくりするほど背が高い。元々顔立ちが大人びていたけれど、それにプラスされた身長は周囲に存在感を与えている。
中学生で190センチもあるのはやっぱり珍しい。きっと彼の所にはバスケ部やバレー部からも勧誘がどっさり来たんだろうなあ。
でも彼は熊本でテニスをやっていたらしく、しかも有名なプレイヤーだったんだとか。勿論、四天宝寺でも彼はレギュラーなんだけど。


「名前おる?」

「ん?なあに千歳くん」

ひょっこり廊下側の窓から顔を出した千歳くんの体が窮屈そうに屈められていた。前の席の横田くんが「おー千歳、久しぶりやな」と軽く挨拶。ひらひらと笑いながら手を振った千歳くんはまたこちらを向いた。

「おぉ、そげなとこにおったと?気付かんかったばい」

「何か今さり気なく酷いこと言ったね…」

「名前に身長の話は突っ込んだらアカンで千歳〜」

「ばってん、すぐ見つけれたとよ。褒めて欲しか」

「シカトか?シカトなんか千歳」

と言いつつ前を向く横田くん。彼は素直でいい子だと思う。ちょっとお節介焼きなのが玉に瑕なんだけど。


「名前、トトロば好いとう?」

「トトロ?うん、ジブリで一番好きだけど」

「それはよか。これ、俺からのお土産たい」

「え!」

千歳くんは小さな紙袋を取り出した。すこしよれてしまっているのは気にしない。それをありがたく受け取ると千歳くんは満足げに笑った。

「わ、ぁ」

中から出てきたのはトトロのお財布、ハンカチ、お弁当箱、手鏡、ストラップなどなど。トトログッズが所狭しと詰め込まれて居るではないか。


「こんなにもらえないよ!」


ジブリってだけで高いのに、こんなに。そう思って千歳くんを見つめると彼は眉を垂れさせて少し拗ねたように呟いた。

「なしてね?」

「だって、申し訳ないよ」

と言えば千歳くんは「そげなこと」と笑った。



「気にすることなか、いつものお礼ばい」

千歳くんが言う、いつもとは私たちがまだ一年生の時の話だ。偶然隣の席になった私に彼は「苗字に頼み事があるばい」と切り出した。

「どうしたの?」

「俺、朝が苦手なんよ、電話して起こしてくれんね?」

「え?」

それからと言うもの、この三年間、毎朝千歳くんを起こすためにモーニングコールをしているのだ。だから、千歳くんがふらふら放浪して学校に来ない場合、先生たちは決まって私に聞きに来るようになった。
先生からの電話は滅多に取らない癖に、私からのコールだとすぐに出るもんだから、すっかり伝言板扱いだ。

まあ別に嫌な訳じゃないんだけど。



三年になった今となってはクラスも離れてしまった。今は白石くんと忍足くんと同じクラスで、けれどモーニングコールは続いてる。だからこうやって千歳くんは私の教室にやってくる。放浪先で見つけたお土産片手に。


「じゃあ、貰っちゃおうかな。いつもありがとう千歳くん」

「ん、よかよ」

にっこり笑った千歳くんに、きゅうんと胸が鳴った。慌てて照れ隠しをするように、笑顔を返してしまった。すると千歳くんは目を真ん丸にした後、バターがとろけちゃいそうなくらいふにゃふにゃの笑みを浮かべた。

「その笑顔見たさに来とうなんて、口が裂けても言えんばい」

「ん?何か言った千歳くん?」

千歳くんはちょいちょい、と私を手招きして耳元に囁いた。



「名前ちゃん、好いとうよ」
20111028 杏里

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