「なーなー名前ちゃん、放課後開いとる?」

「開いてませーん」

「そうかーなら映画見に行こうナリ」

「お前人の話聞いてんのか」

「ピヨッ」

後ろの席の仁王が私の椅子の背凭れを掴んでガタガタと揺らそうとする。勿論、揺れるわけがないんだけど。

「名前ちゃん重い…」

「丸井ー!マサが丸井の事、豚だってさー!」

「わー!わー!」

大声で誤魔化そうとする仁王だが、丸井はただ今トイレに行っている。あれくらいじゃ聞こえないだろう。

「酷いじゃろ、あることないこと言うて」

「別に思ってないなら本人の前で否定すればいいじゃん」

「ぷ、プピーナ」

雅治は図星だったのか変な言葉を呟くと言い返さなかった。私は満足げにふふんと鼻を鳴らし先程まで読んでいた本に目線を戻した。しかし、ペテン師の異名を持つコイツはまだ諦めていなかったのである。

ずっしり、と背中に体重を感じた。


「ぎゃー!重いー!」

「悪い子にはお仕置きじゃき」

おんぶしてもらうみたいに背中に乗っかる仁王は満足げに呟いた。アホか!身長差考えろ!お前みたいなのが上に乗ったら私は潰れる!!


「は、離してガチで離して!」

「じゃあ一緒に映画行ってくれるん?」

「い、行くから!退いて!」

「やったナリ〜」

満面の笑みで喜ぶ仁王は未だに退かない。何故だ、こいつ約束が違うじゃないか!

「お前等何してるんだよ?」

「あ、ブンちゃん帰ってきてしもうた」

「丸井ー!助けてー!」

「俺だけ除け者とかありえねだろぃ!」

「ギャアァア!お前まで乗っかるなアァア」

丸井まで背中に乗ってきた。バカ野郎ブタ野郎!!仁王は自分の上に乗ってきた丸井に「ブンちゃん、重いぜよ」と顔を顰める。お前より私の方が重いからね!






「で、何観るの?」

放課後、丸井は私たちが映画に行く話をすると酷くブーイングを上げた。何故なら彼は今日、真田に説教を食らう予定だったからだ。昨日の部活の時に赤也くんと何かやらかしたらしい。
今日の部活は立海には珍しく物凄い早さで終わった。まあ仁王のことだからサボってきたのだろう。間違いない。

「んー、名前ちゃんは観たいのないんか?」

「そうだなー、洋画見たいかも」

「名前ちゃんはえっちぃのぅ」

「それはポルノ映画ですけど」

「プリッ」

映画館の壁にある沢山の映画の広告パネルを見ながら某英国魔法学校の広告を吟味していると、仁王は思いっきりポルノ映画のパネルを見ていた。うん、死ねばいいと思う。

「まあ、名前ちゃんの裸じゃなきゃマサくん興奮せんから意味ないナリ」

「死ねばいいと思うよ」

ブリザード並みに呟いたら仁王は泣き真似をして「ヒドイ!」と顔を覆った。うん、死ねばいいと思うよ。



受付で券を購入し、ポップコーンやタコスを買うために少し混雑した列に並ぶ。仁王はこの列からひょっこりと頭が出ていた。イケメンだし銀髪だし猫背だから余計に目立つ。しかし何故か表情に締まりがない。

「観てる間に何かしたら口聞かないからね」

「…プピーナ」

図星か。



仁王が好きすぎて辛い
2011109 杏里

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