(ベルと恋愛を語る)




「いっそ、心臓を取り出してしまいたい」

俺の部屋にやって来た名前はそう呟くと足の踏み場のない俺の部屋で唯一寛げるベッドの上で膝を抱えた。
部屋の主を差し置いてベッドを占領するコイツを眺めるように俺は傍から名前を見つめる。顔はあの細い両腕の中に隠れて見えない。まるで胎児みたいに丸くなっている。

俺たちは暗殺者だ。スタイルによっちゃ、そういうのもアリかもしんない。でもぶっちゃけ王子は切り裂いてサボテンにすんのが好きだから、んなことしないけど。


こいつはビョーキにかかってるらしい。

胸が苦しくなったり、押し潰されそうになったりするらしい。苦しいくせに嬉しいらしい。とんだマゾヒストだよな。
色々検査してもらったみてーだけど医療班から異常なしって言われたらしい。
オカマに相談したら、滅茶苦茶興奮して「相手は誰なの?」だってさ。此処までいって分かんねー名前も名前だけど、王子知ってるぜ、そのビョーキの名前。




「ししっ、マジでやったらお前後悔すんじゃね?」

「どうして?」

「王子天才だから、お前の考え当ててやるよ。」

名前の座るベッドに腰を下ろす。するとこいつは一瞬戸惑ったように目を泳がせた。


「無性に苦しいんだろ?息苦しいし、いっそ死んで楽になりたい。でもそれは嫌なんだよな、お前を苦しめてる奴に会えなくなる」


ニッと歯を見せて笑ってやれば、名前は目をぱちくりさせた。


「ベルったら、お医者さんだったの?」

「お前、前から学がないと思ってたけどさ、よくヴァリアー入れたね」

「だって日本語と英語は元から話せたし、あとはイタリア語とかだったし学はないけど学ばなかっただけだもん」

「へぇ」

名前は抱えていた足を離して、ゆっくりと此方を向いた。目は未だに宙を彷徨ってるけど。
こいつとは随分長い間ヴァリアーに居るけど、ぶっちゃけ言って歳が近いだけで、とっくの昔に俺が追い抜いちゃって幹部と補佐になっちゃった訳だ。
だから王子の部屋の敷居を跨がせてやってるし、俺のベッドに座らせてやってる。そう言うことにしてやってる。


「まあ、そのビョーキ、俺もかかってるみたいだし?」

名前は驚いたようにまた目をくりくりさせた。


「他人同士が好き合うって結構難しいんだぜ、なんたって他人だし」

「ベル、どうしたの?」

「ぶっちゃけ今までどーでもいい奴とテキトーにして来たから分かんなかった。滅茶苦茶苦しいのも、怖えーのも知らなかった」

「ベル?」

「俺、お前が好き」


名前は一気に顔を赤くした。なあ、俺の考えが間違ってなかったら、お前は俺の隣に居てくれるんだろうか。



オトメンなベル
20110929 杏里

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