「おい」

朝起きてみんなの朝食を作り、一息付いてリビングに座っていると神田が朝のマラソンから帰ってきた。

「どうしたの」

「ファスナー上がんねえ」

神田は苛々したように呟いた。どうやら毎日日課のマラソンにはまだ向かえていなかったらしい。白のナイロン生地に青のラインの入ったシンプルなジャージを着込んだ神田は上着のファスナーが上がらず、私と一緒の寝室で10分程格闘していたんだとか。この子アホの子だ。


「引っかかってるんじゃない?」

「どこが」

「ファスナーがだよ」

元々朝に弱い神田だけど、自分にも他人にも厳しい彼は自分を律するため、体力作りのため毎朝マラソンを続けている。そのせいか、こんなおかしなやり取りは珍しくない。

「あ、やっぱり服が引っかかってた」

「まじか」

「まじだよ」

神田の目の前に立ってるから至近距離。彼の艶やかな黒髪が同じファスナーを覗き込んだため、頬に触れる。と同時に引っかかっていた服が外れ、私は反射的に顔を上げた。

「顔がやけに近いね」

「お前もな」

神田はいつも凛々しい。切れ長の目に筋の通った鼻筋。前髪ぱっつんは昔からのスタイルである。するする、神田の手が私の頬を撫でている。

「神田には負けるよ」

「バカ名前、お前も神田だろ」

「そうだった。中々慣れないよ、やっぱり」

頬を撫でていた神田の手が私の顎を捕らえた。そしてそのまま、柔らかい唇同士が重なった。ちゅっと軽いリップ音、昔はキス一つでグダってた冷血王がこんなことをしてくるなんて誰が予想できただろうか。

「ちょ、ちょっと駄目」

「あ?何で」

「アレンたち起こさなきゃ。あいつ等今日仕事だし」

「居候してんだ、それくらい空気読むだろ」

「ラビはともかくアレンが起きるとは思えないよ…」

「モヤシは自業自得だ」

せっかく着込んだジャージの上着を脱ぎ捨てて私の服の中に手を突っ込んでくる神田は今日も元気です。ソファーにぐたーっと押し倒されました。ああ新婚一年目、まだまだ熱々です。


現代パロディ 新婚設定
20110824 杏里

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