(現在フランと十年後を語る)


今日はとてもいい日だ。何しろ天気はいいし、風が爽やか。フランと日向ぼっこするには丁度いい。
フランスの陽気な日差しが私たちの遊び場に降り注ぐ。光に反射した水辺に腰掛ける私と、少し先の出っ張った岩に腰掛けているフランが振り向いた。綺麗な薄緑色の髪に翡翠色した瞳。気怠そうな表情は彼にとって通常運転である。


「ねえフラン、あなたも記憶、見たんでしょう?」

淡いインディゴ色のワンピースの裾が小さく揺れた。私のお気に入りの服で、フランのお祖母ちゃんが作ってくれたものだった。

記憶とは私たちの十年後の記憶の話である。
ぶっちゃけ言ってしまうとよく分からない。ボンゴレとかヴァリアー、ミルフィオーレ、マフィアの抗争に何故巻き込まれているのか。私たちはここで育ったし、これからもここで暮らしていくんだと思っていたんだけど。

「まさかイタリアに行くことになっちゃうなんてね」

ぱしゃりと腰掛けた水辺から足を蹴り上げればフランは何時もの間延びした喋り方で話しかけてきた。


「それよりミーは名前までヴァリアーに来るのが驚きですー」

「どうして?」

「虫も殺せないような名前が、あんな中に飛び込んでいくなんて無理でしょー」

「それはフランだって同じじゃない」

「ミーは特別なんですよー、ホラ、幻覚が使える時点でー」

「それなら私は勉強が出来るわ。未来ではヴァリアー専属の研究責任者みたいだったし」

「みたいですねー化学式書きまくって敵溶かして殺してたしー」

「何だか十年後だなんて遠い未来をいきなりネタバレされても拍子抜けだわ」

フランは軽く跳ねて此方にやって来た。私の隣に腰を下ろした彼の方を向くと翡翠色の瞳が淡い揺らめき、私を映していた。


「何とかなんないんですかねー」

「何が?」

「未来、ですよー」

「うーん、一通りの未来があって色んな方向に派生するらしいから何とも言えないけど…」

「名前がヴァリアーに来ない方法、考えないとなー」

「え?」

フランはぐったりと両手で背中側の地面に手を突いて溜息を吐く。


「どうして?」

「名前みたいなのが来てもヴァリアーも迷惑でしょうしー」

「迷惑なら何でヴァリアーに居たのよ私」

「そりゃ猫かぶってたから…イデッ」

「何て言ったの?よく聞こえなかった」

「そりゃ途中で殴ったら何も聞こえないに決まってんだろ」

フランがじっとりと私を見つめる。私はまた水面を蹴った。ばしゃりと宙に舞う水分がキラキラと漂って落ちていく。綺麗だけど、呆気なく落ちていくそれが異様に寂しかった。


「私、嬉しかったのにな」

水面につけていた脚を地面に下ろすと、付着した水が水滴となって滴っていく。ただ黙って聞いているのであろうフランは、此方に顔を向けたままだった。

「十年経っても私たち、一緒に居れるんだって。途中で何があったかはわからないよ?もしかしたら離れてた時期があるかもしれない。だけど、少なくとも十年後は一緒に居れるんだって、安心した」

幼い頃から此処で過ごした私たちは、この世界しか知らない。この川の上流へはいつもフランが背負って連れて行ってくれる。喩え喧嘩をしたって、目は合わせてくれないけれど私の前で膝を折って背中に乗るよう催促する姿を見ると、いつの間にか仲直りしていたものだ。
それは今も同じで、これから先もそうあって欲しいと願っているのは私だけなのだろうか。

「あーもう何でそんなこと言うかなー」

フランが溜息を付いた。ぽん、と頭に置かれた手がいつもみたいに乱暴で、優しかった。

「名前には普通に幸せになって欲しいんですよー、なのにそんなこと言われたら、これから離したくなくなるじゃないですかー」

「フラン、?」

「ま、誰かに渡すなんて癪に障るんで絶対しませんけどー」

私の片手をぎゅっと握ったフランは、珍しく口角を上げて眩しそうに笑った。




今週のWJに即発されて。ヴァリアーメンバーが来る数ヶ月のお話。
20110806 杏里

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