暑い。

ジリジリと焼けるような暑さの中でキラキラと反射する水面を眺めていた。すると足元から冷気のような冷たさが駆け上がり、ふぅっと溜息をつく。

「ゔお゙ぉい、どうしたぁ!行かねぇのかぁ?」

「…だって、」

長い銀髪を鬱陶しそうに掻き上げて私の隣にしゃがみ込んだスクアーロは彼らしい黒と白の迷彩の海パンを穿いていて、上に白いパーカーを纏っていた。これだけで、ここに居る殆どの人間が彼に釘付けになっているのだ。
ここ、とはイタリアのリゾート地。おまけにマフィアしか立ち入れないマフィアランドのような場所。
地中海独特のエメラルドグリーン色の海には目を見張らずにはいられない。でも私の故郷である日本とは海の色も、大体の風景も違う。今の私は少しカントリーシックだ。
そこの浅瀬に腰を下ろし、押したり引いたりしてくる波打ち際で爪先だけを濡らしている私はかなり変な人。

「だって、水着…」

「着てこなかったのかぁ?」

「そうじゃないんだけど…」

私は一見私服のように見えるが、中にちゃんと水着を着ていたりする。よく居るよね、学校の授業で着替えるの面倒だから家から着て行く子。あれが私だ。

「水着の種類が、ね…」

「種類だぁ?」

しかし、私は大きな失敗をしてしまったのだ。こんな豪華絢爛なリゾート地で余りにも相応しくない水着を着て来てしまったのだ。

そう、それは…

「ジャッポーネの"スク水"?」

「そ、スク水」

「・・・俺?」

「いや決してスクはスクアーロのスクじゃないからね。スクール水着のスクだから。私もよくそれ考えたことあったけど鮫水着って何だよ、おかしいだろ」

そう、私が着ているのはスク水。スクール水着の事だ。多分イタリアにはない文化だろうな。
だから恥ずかしいのだ。
日本でなら中学生でさえ普通の水着で海に来ているのに。私は違ってスク水。
しょうがないだろ、これしかなかったんだから。ヴァリアーの幹部には女なんて居ないから違う水着を買いに行く気にはなれなかった。(ルッスーリアは心は乙女だけど多少無理が)

あちらこちらには大胆露出のお姉様方がスクアーロの気を引こうと更に大胆になっている。しかし、この男を侮ってはいけない。いつもはヘタレな癖に流石イタリア男、そんなもの(失礼)視界にさえ入っていないらしい。

「つーか、ガキ共楽しそうだなぁ」

「珍しくマーモンも大人しく一緒に居るしね」

「はっ、年相応になってやがる」

少し深いところで持って来ていたビーチボールをレヴィに投げつけまくるベルに、それを小さな浮き輪にはまって傍観するマーモン。端から見ればただの喧嘩、もしくはイジメに見えるかもしれないが彼等をよく知る人物なら一目瞭然なのだ。
鼻で笑ったスクアーロだが、別に貶したわけではなく純粋に喜んでいるように見える。確かにベルやマーモンは年の割に暗殺だなんて職業のせいで子供らしい事を滅多にしない事は見て取れていた。(マーモンについてはアルコバレーノだから実際赤ん坊じゃないとか何とか)どちらかというと保護者側のスクアーロからすれば微笑ましいことなんだろうけど。

そんな二人を普通の子供に戻してしまうこの海には脱帽するしかない。流石生命の源、命の始まり。生命の誕生も命が生まれたのもすべてこの海から。つまり皆のお母さんなんだ。

だからだろうか。
海を見ると懐かしく感じたり変な気持ちになるのは。そう考えるとスクアーロはどうなんだろ、名前が鮫なんだし何かあるんじゃないか?因縁めいたものが。

「あれ、そう言えばボスは?」

「XANXUSならホテルの方で寝てるぞぉ。アイツが海なんざ来たら半分以上消し飛んじまうだろーが」

「…そりゃ、ごもっともで」

ちぇ、ボスは寝てるのか。でも大丈夫かな?帰ったら部屋の前にホテルの人が沢山転がってたりしたら最悪だけどボスなら有り得なくない。寧ろそっちの方が正当化される勢いだ。

「なぁ名前、」

「ん?どしたスクアーロ」

「向こうの方のビーチなら、人が居ないぜぇ」

「え!マジ!?」

スクアーロが指差したのは少し離れたところにある岩陰の辺りだ。彼の話によると向こう側はどこかのお偉いさんが買い占めているらしく誰も使えないらしい。いやもしかしてだけどさ、それって最初にボがついて最後にレが付くファミリーじゃね?
当たりだぁ、と少々嫌そうに呟くスクアーロからして本部の奴の手は借りたくなかったが…という感情が読み取れた。それでも借りてくれたスクアーロ、ボスに本部に借りを作れば間違いなく殴られるというのにこの可愛い鮫め!あぁあ!流石まいだーりん!

「あそこなら名前も遊べるだろぉ」

「うん!ありがとうスクアーロ!」

「お゙、おう(名前と二人っきりで海に行きたかったから、あの沢田綱吉に訳を話して使用許可を貰ったんだぁ。…名前が恥ずかしがる程の水着、見てぇ…から、ガキ共が気付いてねぇのはラッキーだぜぇ!)」

早速、岩陰の向こうへ行くと実際、先程居たビーチより立派なビーチがそこにはあった。え、もしかしてあっちが借用地?ボンゴレが提供してるビーチだったのか!凄いなコレ!押さえきれない興奮を飛び跳ねながら表現すればスクアーロが「こけんなよぉ」と叫んだ。大丈夫だよ、流石の私も砂浜でこけないから!
早速着ていた服をするりと脱ぎ捨て、スク水状態になる。今年の夏に水泳の授業で着てたからそんなに違和感はない。うわぁああ、やっぱりこのフィット感はエロいだろ。大体、胸とか普通のビキニと違って締め付け強いから自分から見て谷間が普段より大きく見えたり…

「ゔお゙ぉぉおおぉおおい!!」

「!?」

だがその瞬間、スクアーロが何時もの三割り増しで叫んだ。な、何だ!?と振り返るとバッと顔の前に手を置き、目を隠しているスクアーロが居る。…気のせいだろうか、最初から隠されていない耳は真っ赤だし、指の間だから見える肌はやっぱり赤い気がする。

「な゙、な゙な゙な゙ななんだその水着はぁああ!」

「…いや、これがスク水なんだけど」

「(想定外だぁ!!こ、こんなにだとは思ってなかった!!)ゔぉい!!ジャッポーネの女は皆それなのかぁ!?」

「…高校まではね。(高校によって水泳の授業が無いところもあるけど)」

「じゃ、じゃあ、お前のす、スク水姿を……他の奴も見たことあるのかぁ…?」

「うちの学校は水泳の授業男女混合だからね。てか水着を他の人に見せずに授業とか無理だから」

「…名前、お前のクラスの男子名簿寄越せぇ!俺がそのカス共を叩っ斬ってやる!!」

「ちょーーい!!何言ってんの止めてよ!?彼らに罪はないのに!」

突然騒ぎ始めたスクアーロの腕に素早く捕まり押さえようとする。しかし一向に怒りが収まらないのか、ちょ、いつの間にか剣が出てきてるから!・急にブチ切れたスクアーロを止めるのは容易ではない。ボス程じゃないけど日頃が短気なんだからブチ切れた時の迫力も三割り増しな訳だ。

ベルも自分の血を見たら戦闘能力が跳ね上がるけどさ、それとはまた違った迫力がある訳よ。そこんとこ理解しとかないと痛い目合うの!

「あ、いたいたー。王子置いて行くとかマジ有り得ないんだけど」

「ム、何してるんだい名前」

「…ベル!マーモン!」

ジャストタイミングで現れた二人に助けを頼もうと身を乗り出した瞬間、ガバッとスクアーロに抱き締められた。と言うより隠された?でもってスクアーロは首だけ動かして二人を振り返る。

「糞ガキ共、さっさと失せろぉ!さもないと三枚に卸すぞぉ!!」

「うわー、何あのカス鮫。マジウザいんだけど殺すよ?」

うししっ、と笑ったベルはシャキッと愛用のナイフを取り出した。ギャー!ベル!この状態でナイフ投げないでよ!?私まで刺さるから!サボテンになっちゃうから!!

「ベル、止めときなよ。ここで戦うのは何の利益も生まないよ。一応ここは本部の領地だから下手な事をすればボスに殺されるよ」

「…カス鮫ムカつくけどボスに殺られんのは王子嫌だし・・・今回は見逃してやるよカスアーロ」

「ゔお゙ぉい!誰がカスアーロだぁ!!」

「お前に決まってんだろ、カスアーロ」

じゃな!とベルとマーモンは元来た道を戻ると思いきや、前を走り抜けて(マーモンはベルが抱っこ)まだ誰もいない更に向こうへと行ってしまった。二人が走り去る際、マーモンから「邪魔するのは野暮だからね、後で喧嘩を止めた料金頂くよ」なんて聞こえてきた。ちょ、どさくさに紛れて!!

「…スクアーロ、」

「何だぁ」

「苦しい…」

ぎゅうっと強く彼の腕の中に閉じこめられて嬉しいのやら悲しいのやら。渋々離してくれたスクアーロは、こちらを見ていた。彼の目は、とてもまっすぐだ。ボスは鮮血のように綺麗な目をしていて威圧感有り余ってるけどスクアーロは少しというか系統が違う。鋭いけど、それはとても優しくて。

「名前」

「な、何?」

「…その、なんだ」

ガシガシッと乱暴に髪を掻き回すスクアーロ、とってもかっこいい…

「それ見せるのは、俺の下に居るときにしとけぇ」

「ふざけんなぁああ!下ネタかよぉぉお!」


(もうスクアーロと海来ない)

(ゔお゙ぉい!ちょ、待てぇ!)

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夏ですから、頭の中がもうパーンです。
スクアーロと海行きたい
20110720 杏里

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