彼の髪は月日を追うごとに長くなっていく。まるで髪の長さがボスを待つ彼の期待に比例するかの様に。
私の髪は月日を追うごとに短くなってゆく。まるで髪の長さがスクアーロを待つ意地に比例するかの様に。
願掛けって知ってる?
スクアーロにそう言ったのは私だ。彼に髪を伸ばして切らなければ、なんて言ったのだ。最初はスクアーロがそれを真に受けるなんて思っていなかった。元々占いとかに興味の無い奴だったから冗談だと受け流すと思っていた。
お前の言った通り願掛けしてみるぜぇ
は?と私は聞き返した。まさかそんな、あのスクアーロが願掛け?まさかまさか、あり得ない。どうせすぐに切っちゃうわよ。そう言い聞かせた私の心境は単純な物ではなかった。頭の中がぐるぐると渦を巻く。正直、嫌だった。
髪が伸びたね、スクアーロ
お前は短くなってんじゃねぇか
数年経った、肩にもつかないくらい短かった彼の髪は肩に掛かるくらい長くなった。数年経った、腰まで伸びていた長い髪。だけど少し短くした。スクアーロの表情は少しも曇らない。私の表情は暗くなるばかりだ。
何年も経った、恐らく八年は経った。スクアーロは昔の私みたいに髪が長くなった。私の髪は昔のスクアーロみたいに短くなった。
ボスが、目覚めた。
スクアーロは喜んだ、ヴァリアーみんなが喜んだ…勿論、私だって。ボスが眠っていたこの八年間全てがガラリと変わって"それ"がまた戻ろうとしている。私はチラリ、と隣にいるスクアーロを見た。
いや、戻りはしない。
何故なら彼には八年間分の想いがある。八年前には存在しなかった、その銀色の髪が表している。私には八年間分の想いがある。ばさりと切っていった分だけの、髪が現している。いつか、ベルが言っていたのを思い出した。
『名前が髪切るのって失恋した時に女が髪を切るジンクスに似てるよな』
まさにそうだ、私は、私の彼への想いは八年間かけて徐々に切り取られていたのだ。彼、スクアーロの"想い"に失恋して。
「…髪、また伸ばしてみよっかな」
毛先を一摘みして笑う。それに気付いたスクアーロが私の髪を撫でた。
「伸ばすのかぁ?」
「うん」
「そりゃ楽しみだなぁ」
「…何で?」
スクアーロはニィッと笑う。
「何を願掛けするか、だ」
それを聞いて私は、微笑する。
「とりあえず鈍感男を気付かせるかな」
「ゔぉおい、誰が鈍感男だぁ」
今よりもっと、髪が伸びたら言ってやるんだ。
「アンタだよ、ばーか」
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前サイトより。
20110720 杏里