(これの続きでサクマさんとヴァリアー幹部のヒロインちゃんとの<以下略>スクアーロ夢なのかなこれ)
瞬間、爆発音が耳を通り抜ける。事務所の壁が吹っ飛んだのだ。その数秒前に私の体は急激な浮遊間に襲われた。さっきまで私たちが居た場所にコンクリートが落ちている。体中がヒヤリとして全然働こうとしない頭を慌ててフル回転させた。
今の状況は意外にも簡単だった。私はなんとあの細っこい名前さんにお姫様抱っこされていたのだ。一体その細い腕の何処に力を込めたらそんな神業が出来るんだろう。
辺りを見渡せばベルゼブブさんはいつものようにガードを作り無傷だったけどアザゼルさんは飛んできた破片で頭部が潰れていた。けれどすぐに元通りになって、破壊された壁の向こう側に見えた人影に向かい「何するんやこのカス!!」と怒鳴り散らしていた。
しかし埃やら何やらで煙る室内のそれを鋭い何かで振り払った犯人は、けたたましい怒鳴り声を上げて事務所内に侵入してきたのだった。
「ゔお゙ぉい!!今カスって言った奴は前出ろぉ!!死ぬ覚悟は出来てんだろうなぁ!!」
腰まで伸びる長い銀髪、切れ長の鋭い目、手には剣。人相が悪く殺気に塗れているのに、どこか整った顔のその人はアザゼルさんの言葉をしっかり聞いていたらしく声のした方を見やった。
つられて私がそちらを見ると土下座して謝るアザゼルさんが一匹。圧力に負けたのか、悪魔が。
「何で犬っころが喋ってんだぁ…?まぁいい、ようやく見つけたぞぉ!」
ギロリ、鋭い目が此方を向いた。いや、正しくは名前さんにだ。そこでふと気付く。この人の服装、名前さんのコートと同じだ。
名前さんは抱えていた私を丁寧に下ろすと、一歩前に進み出た。途端に、先程まで殺気地味ていたお兄さんの瞳が幾分と和らいだ気がした。
「いつまで臍曲げてるつもりだぁ、早く帰ってこい」
「臍なんて曲げてない。ただ帰りたくないだけ」
「ふざけんなぁ!!こっちの身にもなりやがれぇえ!!」
大音量で怒鳴り散らすお兄さんは予想するに噂の同僚さんのようだった。ていうか名前さんこんな人と住んでるのか。毎日五月蠅いのか。そりゃ家出したくもなるなぁ。
でも今までの話を聞く限りでは他にも問題児が居るらしい。
そんな時、圧力に負けて平謝りしていた犬っころ、アザゼルさんが私のジーンズの裾を引っ張った。「サクちゃん、サクちゃん」と声を掛けてきた彼に身長を合わせるべく膝を折っるとアザゼルさんは耳打ちをした。
「あの二人、あないに喧嘩しとるけど滅茶苦茶ピンクの糸でグルグル巻きやで!ヤりまくっとるで!」
「えっ」
アザゼルさんは淫靡の悪魔だ。肉体関係にある者同士の間にはピンクの糸が見えるらしい。しかも、関係が深ければ深いほど太く強く巻き付いているんだとか。
つまり、ふたりは。
「愚痴言いまくってる癖に何や、やることはちゃっかりヤっとるやないかい!」
ゲラゲラと笑いながらアザゼルさんは弱みを見つけたとニタニタ顔で名前さんとお兄さんの間に立った。
ロン毛のお兄さんは再び現れた喋る犬に少し動揺していたけれど名前さんはアクタベさんばりに表情を凄ませ、ブーツのヒールで思い切りアザゼルさんを踏みつぶした。
「ゔお゙ぉい…いいのかぁ殺して」
「いいの、アザゼルさんは悪魔だから不死身なの」
「そ、そないな笑顔で、サラッと怖いこと言いはるん…流石名前さんや…」
潰されたまま再生していくアザゼルさんは凄く気持ち悪かった。お兄さんも顔を引き攣らせながら「悪魔だぁ?」と半信半疑の様子だった。
「悪かったなぁ、壁壊しちまって」
「いえ、修理費も頂きましたから構いません!」
何とか落ち着いたお兄さんは済まなさそうに言葉を濁した。顔は厳ついけど、とてもいい人だった。修理費も全額負担だなんてどんだけ金持ちなんだろう。
「そもそもお前が逃げなきゃあこんな事にはならなかったんだぁ!」
「人のせいにしないでよね、壊したのはスクアーロでしょうが」
「テメェ…!」
「お、落ち着いてください二人共!」
二度目の正直、何とか落ち着いた名前さんとスクアーロさんの話を変えるため「さっきの話の続きを聞きたいです!」と言ってみた。
「あぁ、そうだったね」
と名前さんは微笑んだ。が、片眉を釣り上げたスクアーロさんが「なんの話だぁ?」と尋ねた為、「私が何の仕事をしてるのかって話なんだけど」と答えた名前さんに彼はまた怒鳴り声を上げた。
「一般人にバラしていい訳がねえだろぉ!」
「大丈夫、私だってサクちゃんたちの秘密を知ってるんからギブアンドテイクなの。それにほら、こーんな写真いっぱい持ってるし…」
「うわぁああぁああ!!言いません絶対言いませんからそれだけは勘弁してくださいぃい」
ちらりとアザゼルさんとベルゼブブさんを見つめた名前さん。その後に懐から取り出したのはコスプレをした際に撮られた写真。私は絶叫した。
結局、スクアーロさんは溜息をついて「好きにしろぉ、ボスにバレても知らねえからなぁ」と吐き捨ててそっぽを向くに収まった。
「じゃあサクちゃん、ボンゴレファミリーって知ってる?」
「い、いえ、知りません」
「あさり家族?何やねんそれ」
「…確かイタリアンマフィアでしたよね」
「ベルゼブブさん知ってるんですか!」
「ええ、勿論です。世界的に有名らしいじゃないですか」
ようやく本題に入り名前さんが質問してきたのは知らない言葉だった。私とアザゼルさんが頭を捻る中、今まで黙っていたベルゼブブさんが此方を見つめていった。
「アクタベ氏の置いていった資料から知識を得ましたが…名前さんの言っていたことは確かだったようだ。彼は貴方がボンゴレ最強だと謳われる独立暗殺部隊、ヴァリアーの人間だと気付いていた」
ベルゼブブさんはいつものように済ました様子で呟いてから「サクマさん、カレーは残っていますか?」と尋ねて「あ、昨日のが残ってますよ」と答えると早々に退却していった。いや待て、ベルゼブブさん。貴方爆弾落としていったよ。
「ベルゼブブさんの言う通り。殺しを職業とする暗殺部隊で幹部やってるの。このロン毛はスペルビ・スクアーロ、ヴァリアーのNo.2だよ」
「名前さんが、暗殺部隊の幹部…」
だからアザゼルさんの頭を平気で捻り潰せたんだ。見慣れてるから平然としていられたんだ。同じようなことを仕事として行っていたから。その言葉に妙に納得した自分が居た。
「大体の子はこれ聞いたら距離置かれちゃうんだよね、いやいや参ったよ」
「だから名前さん、言うの渋ってたんですか」
「まあ、うん」
困ったように笑う彼女は「私、一般人の友達初めてだったからさ」と頬を掻いた。同じマフィアでもヴァリアーと聞いただけで態度を変えられてしまうらしい。それほどまでに恐れられている部隊の幹部だなんて。あぁ、もう。
「悪魔使いで宜しければ是非、これからも仲良くしてくださいね」
「サクちゃん…」
彼女も私と同じで、私を特別な人だと思ってくれていたみたいだ。なんだか嬉しい。嬉しすぎる。
「所で名前さんとスクアーロさんって付き合ってるんですか?」
「えっ、何で分かったの」
「わいの淫靡の能力やで!お二人さん随分と深い間柄みたいやないか、夜な夜なしけ込んでぶへらぁ!」
グリモアで、ひと突き。
「すいません、何かすいません…」
「いやサクちゃんが謝ることないよ」
「ふ、二人とも、踏みつけながら喋るの、やめてや…」
「ゔお゙ぉい、大丈夫なのかぁ」
「大丈夫大丈夫」
「いつもはもっとぶちまけてるからね」
俺得過ぎて。
20110621 杏里