(よんアザとのコラボでサクマとヴァリアー幹部のヒロインちゃんでお互いの同僚について愚痴るだけの誰得企画)
目の前に出された紅茶を飲みながら、その人は淡々と語り始めた。
「ほんっと有り得ないの、うちの連中は」
手土産にと差し出された高級そうな白い箱からケーキを取り出してお皿に取り分ける。
「あぁ、名前さんの同僚さんたちですっけ?」
生クリームの上に甘そうな苺が乗ったショートケーキを選ばせてもらい「お土産なんだからみんなで食べて」と遠慮する名前さんにもお皿を差し出した。渋々受け取った彼女は「ありがとう」と笑って、それからまた眉を顰めた。
「そう、あいつ等ほんと協調性がないの!すぐ口論になるし、殴り合いになるし殺し合いになるし」
「前から思ってましたけど随分バイオレンスですよね、名前さんの職場って」
「いや、サクちゃんの職場も変わんないんじゃないかな……私たちの場合、やってる仕事が仕事なだけに仕方ないって言うか…給料は申し分ないからいいけど」
「あえてどんな仕事かは聞かないでおきます」
「うん、ありがとう」
探偵事務所を訪れた名前さんは私が所謂レイヤーをしていた時の知り合いだった。偶々会場内で出会い、深夜番組『撲殺天使髑髏ちゃん』のコスをしていた名前さんと意気投合した私はベルゼブブさんの事件以来も親交を深めていたのだ。勿論、彼女は黄金入りのカレーを食していなかったからなのだが。
何度かお茶をするようになり「サクちゃんの職場見てみたい」の一言からアクタベさんに許可をもらい、特別に見学へやって来た名前さん。私以外の人間に隙あらば付け込もうとしたアザゼルさんとベルゼブブさんは彼女に興味津々で、結局というか展開的にはこうなるんだろうなぁと思っていたけれどバレた。
どうやってバレたかと言えば毎度お馴染みのコントのようにベルゼブブさんにスカトロ発言したアザゼルさんの首がすぽーんと飛んで、名前さんの膝が見事ナイスキャッチ!切断面がべちょり、彼女のミニスカートを汚したからである。
ここで普通の人なら悲鳴を上げるのだけれど、名前さんは悲鳴どころかにこりともしなかった。じいっとアザゼルを見つめ、そして首を持ち上げて切断面をまじまじと見つめた。ついには「ど、どうも…アザゼルいいますねん」と喋っちゃった彼の頭を手加減なしで捻り潰してしまったのだ。
それ以来と言うもの名前さんは特別な人になった。アクタベさんが現場を見ていたのもあり、秘密を知ったものの彼女の人柄というか無関心さに害はないと判断したため自由に此処へ訪れるようになれたのだ。いやそれで許したアクタベさんもアクタベさんだけど。
愚痴を零す名前さんをアクタベさんを見る目に近い視線で見つめるアザゼルさんは、ベルゼブブさんの後ろでこっそり彼女を見ている。それを気にもしていない名前さん。何だこの図は。
「あれ、今気付いたんですけど今日の服、仕事着ですか?」
「あ、うん。ちょうど帰りに寄ったから」
いつもはそこらに居る女の子と変わらない服装の名前さんだけど、今日は全身黒コーデだった。エンブレムみたいな紋様の付いたコート、スカート、タイツ、ブーツ。すべてが真っ黒。名前さんは艶のある髪をしているし瞳も綺麗な黒だから本当に真っ黒だった。けれど肌は羨ましいくらい白くて、柔らかそうでスタイルはいいし、ほんと羨ましい。
「それと、家出して来たから今日は帰らないし」
「えっ?」
名前さんはにっこりして言った。
「あ、ちゃんとホテル取ってあるし、大丈夫。結構稼いでるんだよ私」
「いや、え?家出?」
「うん、家出っていうかまあ言っちゃったら行方くらましたって言うのが正しいかも。うちの会社イタリアが本社で社員は住み込みで働いてるから、みんな家族みたいな感じなんだよね。だから家出って言ってみたんだけど。あ、今回は日本で仕事があったから滞在してるんだ」
「そ、そうだったんですか…」
前からあえて突っ込まなかった名前さんの職場。私は彼女に聞かれたから答えたけれど、私自身が質問しなかったのもあったしあれだけども。
「名前さんって何の仕事してるんです?」
名前さんは静かに私を見て、そして少し戸惑ったように目を揺らした。いつも毅然とした態度の彼女からすれば、とても珍しい表情だった。
「それ、いつか聞かれると思ってて自分なりに覚悟してたつもりだったんだけど」
「覚悟…?」
「サクちゃんも薄々気付いてると思ってたけど…アクタベさんは気付いてたし」
「えっ、アクタベさんが!?」
「うん。あの人うちのボ…上司に雰囲気似てて超直感持ってるんじゃないかってくらい勘もいいよね」
「ちょうちょっかん…?」
「あぁ、いやこっちの話だから気にしないで」
にこにこと笑った名前さんは改めて此方を向いた。日本人らしい整った顔が、長い睫毛が、彼女の頬に影を落としながら。
「わたしね…」
瞬間、爆発音が響いて私は視界を覆われた。
続きます。
20110621 杏里