裸体で馬乗りになって見下ろした彼の肢体は色白い癖に所々に傷があった。刀傷、被弾したものから様々。すらりとした体つきなのに、やはり男だと思わされる。脱ぎ散らかしたわたしの隊服や中に着ていたワイシャツ、彼の血塗れの隊服が床で乱雑に折り重なっていた。

わたしがすべてを見下ろして銃口を向けているのに、貴方は酷く冷静だった。銀髪が白のシーツの上で水紋みたいに広がっている。あの鋭い眼がわたし見つめている。酷く余裕な眼で。

「ずいぶん余裕ね」

皮肉っぽく呟いてみたら貴方は鼻で軽く笑った。まるで下らないと目まで瞑った。未だに銃口は彼の眉間を向いているのに、だ。
いつも行う行為の延長線上、終わった後にぐたぐだと携帯をいじる私に言うみたいに「下らねえ事してないでさっさと寝ろぉ」なんて言って、まるで取り合おうとしない。




「わたし、あなたを殺すわ」

そんなスクアーロに殺気を込めて囁いた。すると彼は私を見つめ返す。あのグレーの瞳が私を。
細まったその眼が私を捉えたとき心臓が不思議な動きをした。どくりと嫌な音を立てて心弁が血液を排出する。スクアーロは、ぽつりと呟いた。


「誰の命令だ?」

「私のボスよ」

「XANXUS…じゃあなさそうだなぁ」

「えぇ、XANXUSじゃないわ。わたしを育ててくれた人よ」

暗殺者としてね、と付け加えれば彼は面倒そうに舌打ちした。私を小さい頃に拾ってくれたボスからの命令。ずっと連絡を取っていなかったけれど、久しぶりに出会った私に彼は言ったの。

「スペルビ・スクアーロを殺してくれ」

彼のファミリーはスクアーロによって壊滅させられていた。勿論私も関わってきた人たちだ。孤児だったわたしを匿って育ててくれた優しい人たちだった。
餓死寸前だったわたしに温かい食べ物とミルクをくれた。綺麗な服をプレゼントしてくれた。ボスみたいに強くなりたいと言った私に銃の扱い方を教えてくれた。
けれど私が独立した数年後、裏で人身売買、臓器売買に手を染めてしまいボンゴレによって粛清されてしまったのだ。

そう言えば一度だけ、任務でファミリーを潰すと言っていたスクアーロは詳しく語ろうとしなかった。その時はただ、仕事に対して神経質な彼が珍しいと首を傾げただけだったのだけど。
見せしめにボス以外を殲滅したのだと報告書に書き殴っていた彼は一体何を思って私に接していたのだろう。知っていただろう、私が彼のファミリーで育ったことを。そしてそのファミリーを自分が殲滅したことについて何故語らなかったのか。
理由は簡単だった。あの頃わたしたちはお互いの気持ちを知らなかったからだ。彼が私を好きだと言ったのはそれから数年後。



ボスはすべてを知っていたのかもしれない。だからこそ私に依頼した。スクアーロと私が恋仲なのを知っていて、私がボスの頼みを断れないのを知っていて。それが一番スクアーロにとって苦痛になるのだと信じて疑わなかった訳だ。

私にとってヴァリアーは14歳からずっと居る家族のようなものだ。けれどボスには適わない。だから今回の任務、スクアーロの暗殺も受け入れたのだ。ボスが望むなら、わたしは。

「お前に俺は撃てねぇ」

スクアーロは口角をつり上げた。まさか、私が貴方に体を許してきたからだとでも?愛を囁きあってきたから?そんな甘っちょろい考えなら脳天をぶち抜かれて死になさいよ。だって安全装置を外された私の銃はしっかりと眉間を狙ったままだもの。

「何故?」

馬鹿らしいと笑ったのは私だった。哀れだと罵ったのは私だった。何を根拠に。私も貴方も暗殺者。標的に情けなんて掛けない、だってプロだもの。今までだってこれからだって私たちは容赦なく人を殺していくんだから。
貴方が斬り捨てた人の数だけ、私が撃ち殺した人の数だけ、わたしたちは無情になったの。

「俺がお前を愛していて、お前が俺を愛しているからだぁ」

あろうことか彼は傲慢にも自信たっぷりに呟いた。その答えは今までで一番彼らしくなく、不安定なものだった。的確な判断で窮地を潜り抜けてきたスクアーロらしくない、酷くロマンチストな。
馬鹿みたい。そんな確信のないものを信じて、たったそれだけの、可能性を信じたって。裏切る事なんて当たり前のこの世界でどうしてそんなに真っ直ぐに応えられるの。



「わたしは貴方なんて愛してない」

「言うじゃねぇか」

「ええ、事実だもの」

カチリ、眉間を狙い定めていた銃の引き金を引いた。ズガンッと重い音がして、銃口から煙が上がる。

弾を受け入れたのは白いシーツだった。焼け焦げた臭いが鼻をつく。スクアーロは身動き一つしていない。少しずらされたそれは彼を傷つけることはなかった。
自分でも驚いた。もう一度銃口を向けると、手元は笑えるくらいに震える。

「…なんで、」

装填した弾丸は、私が構えた銃器は彼に標準を向けることを拒む。更に震える手はスクアーロによって掴まれた。


「認めろ、ちったぁ素直になれ」


スクアーロの勝ちだ。それも完全勝利だ。銃を投げ捨てた私はボタボタと涙を零す。ガシガシと撫でられた頭に、心に温かい何かが流れ込んでくる。馬鹿みたい、馬鹿みたい。
さっき心臓が不思議な動きをしたのも、手が震えたのも全部全部、貴方が愛しいからだったなんて。



「わたし、貴方が本当に好きなのね」

「ハッ、愛してるの間違いだろぉ」


間違い探し。学生時代からずっと同じ道を辿ってきた私たちだけど、一体いつ貴方を愛してしまったんだろう。貴方はいつ、私を愛してしまったの。

「そうね。それが正しいんだわ。うん、愛してるわ、スクアーロ」

わたしたちはお互い、馬鹿みたいに愛してと叫んでいた。けれど私は彼の言葉に耳を傾けようとはしなかった。愛し合っていた癖に可笑しな話よね。とんだ茶番。
けれどもっと早くに気付いていたら、こんな喜劇にはならなかっただろうに。


20110608 杏里

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