双子とは実に便利だ。特に瓜二つ、一卵性双生児の場合は見分けがつかないものだ。
俺たちはそれを利用して、幾度となく困難を乗り越えてきた。例えば、お互いが入れ替わったりするのはよくあることで、お袋や親父さえ気付かないことだってあった。


それを悲しんでいたのはとんと昔だ。

そう、自分に精一杯だったガキの頃の話だ。


ホグワーツに入学して友人が増えた。なんて事はない、俺たちの違いに気付けたのは極僅か。リーやアンジェリーナくらいだ。それも、慣れるまで相当な時間を費やした。


お陰で悪戯はスムーズに行える。

全くもって問題ない。







「ジョージ先輩」



いつものように廊下を二人で並んで歩いていた。シンメトリーになる様、教科書は左右対称になるように持ち、お決まりの笑みを浮かべて颯爽と。
足並みだってピッタリで今ならリーやアンジェリーナだって分からないはずだ。


なのに、まさか。



「俺はフレッドだけど?」

「いや、そう言う冗談はいいんで…マクゴナガル先生が呼んでます。クィディッチの事で相談があるそうですよ」



気怠そうに呟いた彼女に驚いた。ネクタイを見れば自分たちと同じネクタイカラーだし、先輩と言うんだ、後輩なんだろう。そう言えばロニー坊やの同級生じゃなかったか?

俺とフレッドは同時に顔をつき合わせて目を丸くした。用件を済ませた彼女はそそくさと退却しようとするので、その腕を二人で片方ずつ掴んでズルズルと引き摺る。
「ちょっと、何するんですか」少し嫌そうに眉間に皺を寄せる彼女を宥め、「質問が終わればすぐに帰すから」と中庭の木の下にやって来た。



「君は早期帰還を望んでいるようだから単刀直入に聞くぜ。何で俺がジョージだと思うんだい?」

「え、それ聞きますか」



あっけらかんと返す彼女は面倒くさそうに顔を顰める。フレッドが「おいおい、面倒くさがるなんて酷いぜ」と肩を竦めた。



「うーん、最初は勘だったんですよ。でもハリーやロンと話すのを見てたら違いに気付いちゃって」



渋々、と言った感じに語り始めた彼女は俺とフレッドを交互に見て呟く。まさか、たったそれだけで俺達を見分けたってのか。おったまげー!



「違いがわかるのか?」

「当たってなかったら済みません、フレッドさんは比較的お調子者ですよね。ジョージさんはそれのフォローに回ることが多いです。大抵、フレッドさんの言葉に冷静に返すのがジョージさんですし」

「何だか俺は貶されてないか、相棒」

「事実だから仕方ないだろ、相棒」

「あ、やっぱりジョージさんだったんですね。今のやり取りがまさにそうです」




墓穴を掘るってのはこういうのを言うんだな、とフレッドが俺を見た。



「分かっていただけましたか?」

「あぁ、よーく分かったぜ」

「君が如何に我々を見分けるすべを持っているか」

「それはよかった、では失礼しますね」



ぺこりと頭を下げた彼女はその場を去った。すると、入れ替わりで近くを我が弟と英雄が通る。俺達は二人に歩み寄り、どんどん小さくなっていく彼女の背中を指さして言った。



「彼女の名前はなんて言うんだ?」

「教えてくれないか、我が弟よ」

「なんで教えなくちゃいけないんだよ。まさか名前に目を付けたってのか?やめろよ、彼女は僕等の友人だぞ!」

「ロン、言っちゃってるよ」

「あ!」

「かわいいかわいいロニー坊や、情報ありがとな」

「やっぱりお前はロニー坊やだな」




ニヤリと笑えば弟は怒ったように顔を赤くした。その隣でハリーが「どうして名前が気になるの?」と訪ねた。




「彼女は我々を見分ける術を持っている」

「そうだ。それは我々にとって光栄な事でもあり」

「同時に脅威になる」




フレッドは名前の歩き去った方に向かって恭しく跪き、俺は自分の首を絞めるフリをした。ハリーは「確かに」とクスクス笑う。


「だから早急に我々の仲間に招き入れなくてはならない」

「そうだ、早急にだ」

「マクゴナガルの手下にでもなってみろ」

「俺たちはお終いさ」



そう言って彼女の居た方を見れば、ハーマイオニーと教室の方へ入って行くのが見えた。すると、ロンが不満気に鼻を鳴らした。



「そんなこと言って名前を巻き込みたいだけだろ」

「おや、ロニー坊や。やけに擁護するじゃないか」

「俺たちにご不満でも?」

「ありありさ。彼女は静かに過ごしたいタイプだぜ、二人には向いてない」

「あー、ロンの言うとおり、名前はちょっと変わってて…何て言うか、騒がしいのが嫌いなんだ」

「へえ」

「そりゃあ困ったな」

「でも、誘い甲斐がある」



交互に呟き、俺たちは腕を組み合わせて笑えばそれを見て「イカれてる…」とロンが囁いた。すかさず拳骨をお見舞いしてやった。



「にしても何で名前は俺たちを易々と見分けられたんだ?」

「もしや、これが噂の愛の力ってやつか?」



ロンは吹き出してハリーは更に笑った。俺たちはムッとして聞き返す。



「まさか、そんな訳ないだろ…!」

「ロニー坊や。何がそんなに可笑しいんだ?」

「ハリー、ロンの代わりに説明してくれよ」



ハリーは笑いを堪えながら言った。



「名前には五人弟が居るんだ」

「おや、さながら我が家みたいな構成だな」

「メモっとかないと忘れちまうぜ、ジョージ」

「了解、で?それがどう関係してるんだ?」

「ただの五人じゃないんだよ」




ロンは腹を抱えて笑い出す。最早ヒーヒーと苦しそうだ。



「君達みたいに、一卵性双生児の五つ子なんだ」



瞬間、俺たちも笑い出す。



「そりゃあ俺たちが適わないわけだ!」

「五つ子の姉貴に勝とうなんて無理だな」



一通り笑い、治まった頃には昼食の時間が近付いていた。



「でも諦めた訳じゃあないぜ」

「寧ろそっちの方が燃えるってもんだ」



そう言って、昼食に向かうべくハーマイオニーと共に教室から出て来た名前の元へ向かう。



「善は急げだ!」

「そうだな相棒!」



ロンは憤慨したようにその後ろ姿を見つめ、ハリーは小さくはにかみながら見送った。
自分たちでは気付けなかった完璧に見分けてくれる逸材を見つけ出した二人は、至極ご機嫌だったのだ。







20101031 杏里

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