これの続き。
煙が晴れてきた。咽せる喉を空気を吸い込む事で何とかしようとする。痛い、煙吸い過ぎた。肺の中に煙が入り過ぎて痛いぞ。あー、肺をひっくり返して空気だけ詰め込みたい気分。実際やったら死んじゃいますがね、あはは。
「あの、苗字さん?」
不意に懐かしい声が鼓膜へと届いてきて私の脳内を揺らす。あぁ、懐かしい柔らかい声に涙腺が緩みそうになるのを必死に堪え、顔を上げた。
「…ツナ、」
「ご、ごめんなさい!10年後の苗字さん!!どこか怪我してないですか!?」
「ううん、大丈夫。有り難う」
「よ、良かったぁ…ほらランボ、謝れよ!」
「ねーちゃん、だれ?」
「名前だよ、ランボ。10年後の」
ランボは「じゅうねんごのー?」と首を傾け、近くに居たイーピンは「¥$☆*#&」と呟いていて、あぁ中国語で「大人名前ね!」と言っていた。(今の私は10年前と違って7カ国以上の国の人と話せるよー)それから10年バズーカが5発連射で当たった事を聞かされ、リング争奪戦の際にランボの20年後の登場条件から考え、連射の場合は滞在時間が増えるのだと推測した。(つまりは25分滞在するって事)
そう言えば10年前に未来に行った時も25分だった気が。
…それにしても、私は上手く笑っているのだろうか。泣きそうな顔をしていないだろうか、今、それが無性に心配で堪らない。悟られてはいけないのだ。未来で起こる悲しい悲劇を。
「苗字、随分髪伸びたのな」
「あ、うん。山本も相変わらずの爽やかだね」
「おぅ、サンキュー」
「けっ、苗字は何時まで経ってもガキじゃねーか」
「あはは、獄寺君はそんなに私に潰されたいんだー」
「テメェなんかに殺られるような男じゃねーよ」
「未来ではどうなってるやら?」
「な、何だと!?俺がお前に…?!」
山本もニコニコと、獄寺君も今と変わらずの苛々顔、あはは、なんて愉快。皆が揃うだけでこんなにも違うのか。若いとは何と素晴らしい。あの平和な時間がここにはある。これからずっと延長線上に伸びていくだろうと盲信していた、日常が今はまだ成り立っている。
「名前、いつの間にそんなに身長大きくなったの」
「あ、雲雀!そうか、この頃は髪長かったんだよねー」
「僕を無視するなんて咬み殺されたいの?訳分からない事言ってないで説明しなよ。どうして急に大きくなったの」
「…ツナ、雲雀に説明してないの?」
「ひ、雲雀さんは多分あやふやな理解の仕方してるから…」
「うーわ、面倒。」
嘘だ。本当は楽しくて堪らない。昔みたいな軽いノリのコントがまた出来るだなんて夢のようで。未来ではみんな大人で、こんな馬鹿は出来ない。(よく考えたら私、子供に混じって子供と同じテンションではしゃいでるじゃん…確かに獄寺の言葉は一理あったな)てか雲雀、10年後から来たって話してたのに何も聞いてないなこの子。全く変わらない信念をお持ちだ。
なんて考えていたら足元の視界に何かが居て、そちらに視線を向ける。
「ちゃおっス、名前。」
「リボーン!相変わらずの愛くるしさだね!まぁうちのマーモンには負けるけど」
「俺とアイツを一緒にするな、格が違うぞ」
「…相変わらずの鬼畜っぷりですね。そいやぁヴァリアー諸君は?」
「アイツ等ならまだ来てねぇぞ。俺達はこの客間に案内されただけだ。」
「成程、帰る前にスクアーロに会いたいんだけど…」
リボーンを見て、マーモンの名を口にして、更に涙腺が緩む。やばい締めなきゃ締めなきゃ。でも、会えて嬉しいよ、うん。どんな形でも、もう一度会えた事が嬉し過ぎる。そう私が心の中でいた瞬間、バァン!と大きな音がして扉が開いた。
…あはは。こんな開け方一人しかいないね。ボスならもう扉壊してるし、ベルなら自分で滅多に開けないし。マーモンなら気配消すし、レヴィならまずボスの後ろにいるしルッスーリアなら無言で入ってこない筈。
愛しのダーリン登場って訳ね。
「ゔお゙ぉい!さっきの、…音は、何、だ…」
「あり?名前何か成長してね?」
「そっちの雷の守護者の10年バズーカに当てられたみたいだね」
「あらまぁ!名前ちゃん美人になって!私の目に狂いはなかったわね!」
「…カス女か?」
「よ、…妖艶だ」
現れたヴァリアー諸君はそれぞれに一言述べて部屋に入って来た。ボス、カス女かって…そうでしたね、この時代のアナタは人間ブリザードでしたね。にしても、みんなまだ若いなー。ボスに至っては10年後の方が若く見えるとかそんな話浮上してましたけど(言ったら間違いなくコォオってされるからね、うん。)あぁあ、何か懐かし過ぎる。
一応、ヴァリアーのみんなにも私のここまでの成り行きを説明した。(スクアーロがランボを三枚に卸すとか言ってた)
「ほ、本当に名前なのかぁ?」
「うん、そうだよ」
「…き、き、」
「き?」
スクアーロは顔を真っ赤にさせて、目を逸らしながら言う。
「き、綺麗だぜぇ…名前、」
え?あのスクアーロが?ヘタレのスクアーロが?今なんて、言ったの?
「スクアーロ、もう一度言って。」
「に、二度は言わねぇぞぉ!」
「ししっ、スクアーロ何かウゼー」
「黙れベル!!お、俺は素直な感想を述べたまでだぁ!!」
「スクアーロったら、もぅヤケクソになっちゃって。愛されてるわね、名前ちゃん」
「うわー、何か凄いサプライズみたいな気分」
「名前、顔がニヤけてるよ」
「マーモンすりすりしていい?」
「特別料金発生するよ」
「残念。」
懐かしい懐かしい懐かしい懐かしい懐かしい懐かしい懐かしい懐かしい。涙腺よ、もう少しの辛抱だから、耐えてよ!
「そろそろ25分経つかな」
「オイ、名前」
「へ?ボス、何ですか?」
「向こうの俺に伝えろ」
「…私に死ねと?」
「まだ何も言ってねぇ」
そう言うと、ボスは私を見て言った。
「結婚祝いを俺からの分、お前に渡しとけってな」
「ゔお゙ぉい!け、結婚!?」
「あら!気付かなかったけど薬指の指輪って結婚指輪だったの!?」
「あ、うん。そだよ」
「相手誰?もしかして王子?」
「いや、今までの流れ上スクアーロしか居ないと僕は思うけど」
「あはは、そこはシークレットで!タイムパラドック起きたら大変だし」
「…ゔぉい、名前、」
「ん?」
気付いたらスクアーロがさっきより近くなっていて、年は今私の方が上でも、きっと一生この人のように彼を見下ろす事はないんだと、ぼんやり考えていた。すると、そのまま無言を貫き通し現在進行形なスクアーロ。結果、私達の距離は±0になった。
…あれ?結果、私達の距離は±0になった。とか冷静に言ってるけど何だこの唇に当たる温かい感触は。いや、忘れる筈がないんですけどね、大好きなダーリンの唇ですから。問題はキスしている場所ですよ、空間!あのスクアーロが人前で堂々とする人じゃない事は百も承知、天変地異な訳で。
「ワッツ?ホワイ?」
「…予約しといたぜぇ」
「予約しといた?」
「結婚相手が俺じゃねぇかもしれねぇ…だから」
「それを私にしても意味なくない?どっちかと言うと現在の私に言わなくちゃ」
「…あ。」
それを聞いたスクアーロは一瞬にして真っ赤になった。(ベルがスクアーロミスったな、うししっとか言ってた)余程焦って判断を鈍らせてしまったのだろうか。だとしたら嬉しいね。
「ねぇスクアーロ、私の事捕まえときたいなら今のうちにしっかり捕まえといてね」
「―…な、」
そしてタイミング良く目の前が煙に包まれる。チャンスだわ。
「未来で待ってるからね、マイダーリン」
彼にだけ聞こえるように呟いた。
ハロー!まいはにー
(未来に戻ったら、)
(もう一度ダーリンにキスしよう)
「只今戻りましたよ」
呑気な声でそう言うと、目の前に居た旦那様が少し微笑して優しく抱き締めてくれました。おおっと、忘れちゃいけない。今からボスのところに行かなくちゃ!結婚祝いを貰いにね!てかもう結婚式の時たんまり頂いたんだけど。ま、いいか。
「過去の俺はどうだったぁ?」
「素敵に格好良かったよ」
そう言って、もう一度キスをした。
「す、スクアーロ…」
未来から帰って来ました。何故か目の前に居る恋人を目にして、さっきまで不安だった感情は一気になくなりました。未来のスクアーロは、私に何を伝えたかったのかって考えるけど、思いついたのは一つだけ。強くなるしかないんだね。
これから訪れる、未来の為に。
「前髪も伸ばさない?」
「その前に、俺の話聞けぇ…」
「へ?」
降って来たキスに体が固まる。
「今度こそ、予約しといたぜ」
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前サイトより。
長かったですねー
20110517 杏里