これの続き。
腕の中で眠る我が子(天使に負けない可愛さ)をウフフと怪しい笑い声を上げながら見つめる。すると隣に座っていたスクアーロが「教育上悪いから止めろぉ、それ」と横槍を入れてきた。いや、アンタの口調の方が悪いからね、パパさん。絶対この子口悪い子にはしたくないのに。これ以上ヴァリアーにカスとか平気で言う人を増やしたくありませんのです神様。
「それにしても私も24か、10年は早いなぁ」
「ゔお゙ぉい、急に年寄りくさい事いうなぁ」
「…いや、スクアーロの方がどちらかと言うと歳…」
「それ以上言ったらかっ捌くぞぉ」
「(出来ない癖に…)はーい」
そう、もう10年経つんだ。あのリング争奪戦から。長いような短いような、よく分かんないや。ただ確かなのは私はスクアーロの子供を産んで奥さんとしてここに居ること。うん、何か泣けてきた。
ミルフィオーレからの奇襲を受けボンゴレは一時的に壊滅状態に陥った。その数週間前に私はヴァリアーのアジトへと避難させられていて奇跡的に助かっていたんだ。
そう、ボンゴレ十代目…沢田綱吉ことツナの命令で。もしかしたら彼は全て分かっていたのだろうか?
『苗字さんはスクアーロと居て』
そして数週間後に妊娠して数ヶ月後に出産。(本部にいた時からスクアーロはちょくちょく会いに来てくれたから、まぁニャンニャンしてた訳で)今考えれば彼のおかげで長らえた命、私と我が子だ。スクアーロも妊娠が分かった時に滅茶苦茶叫んで喜んでくれた。(あれは少し恥ずかしかったな、まぁすぐにうるせぇカス鮫!ってボスに殴られてたけど)
でも、それが私にとってツナを見た最後だった。
マーモンもリボーンもコロネロも。アルコバレーノは皆、息絶えてしまった。すごく悲しくて理不尽で悔しくて堪らなかった。ツナも居なくなって心の中心に穴が開いて、大切なボスを失って守護者のみんなは悲しみに暮れてた。そんな中で生まれた小さな命。
今まで重かった空気が一変して、この小さな小さな命の為に戦おうって決めた。
私も、もう出産の疲れも取れたから復帰する。この子の未来の為に、戦うんだ。
「…ママ、頑張るからね」
あぁ、10年前にこんな事になるなんて予想できただろうか。あの頃は、そうある事が当たり前で受け止める真実であって、それを受け止めていた。でも、いざ受け止める重さが変われば、辛く厳しいものになった。
我が子のこんなにちっちゃい手に酷な未来を背負わせていかないといけない、そう考えると苦しくて堪らない。
『手、ちっちゃいね』
…何時だっただろうか、私はこの小さな手を見つめたことがある気がする。それも、まだ私がこの子を生む前の話だ。
『・・・スクアーロ、この子ってさ、』
「名前〜ボスからの施しよ〜」
「え、」
気付けばルッスーリアが目の前に居て、部屋の中に新しくベビーベッドが運び込まれていた。スクアーロがそこに我が子を寝かせているのが見える。くそ、何か笑えるぞ、この絵。スクアーロにベビーベッドとか無縁だな。でも赤ん坊を抱く手つきとかは父親のそれで、様になってますよ…ベビーベッドを除いて。てゆうか、いつの間に連れて行かれてたんだい?マイエンジェル。
ルッスーリアはベッドを運び終わると「後は任せたわよ、新婚さん」とか言って部屋を後にした。(スクアーロがその発言に顔を真っ赤にしてキレた。未だにヘタレは改善されていない)
ふと、我が子を乗せるベビーベッドを見やる。…これ見たことがある気がする。
「急にどうしたぁ、名前?」
「昔のアルバム探してるの!」
「ゔお゙ぉい、そんなモンが何で今要るんだぁ?」
「思い出したいことがあって…!」
クローゼットの中を引っ掻き回して探す。確か、あのケースの中に仕舞ってたはずだ。そう、あの日、私がヴァリアーのアジトに並盛メンバーと来た日の、写真―…
「・・・やっぱり、」
「ゔお゙ぉい、やけに懐かしいの引っ張り出したなぁ」
そこには記念にと撮られた写真。並盛メンバーとヴァリアーの皆が写っている。(ヴァリアーに限っては人相悪い)本来、暗殺業を営む私達には写真という己の存在を残す物を作る事は許されない。だけどボスが「これだけ居りゃあ誰が誰だか分かんねぇだろ、カス」とか言ってくれたから撮れた写真だ。
そして、その写真の裏に、私は未来の自分へとメッセージを残したんだ。万が一、いや抜けてる私がこの事をまた思い出せるように。
「"きっと未来でまた会えるでしょう。可愛いべいびー"」
「…何だぁ?このメッセージは」
「えへへ、やっぱりそうかー。じゃあそろそろかなぁ」
「あ゙ぁ?」
「22歳のスクアーロ、可愛がってくるね」
「とうとう頭がイカレたかぁ」
「…」
冷たい目でスクアーロを見つめ返し、そう言えば廊下でだったよなと部屋の扉を開ける。
「さぁて、ちょっくら浮気してくるか!」
「そーゆぅのは黙ってするもんだろぉ」
「いいの!だって相手はスクアーロだもんっ」
「はぁ?」
意味不明な言葉を発し、意気揚々と部屋を後にする私をスクアーロはポカンと口を開けて見送る。そうよ、スクアーロは知らないもんね。私が未来で自分の子供に会って来た事。
少し長い廊下を歩いて、そろそろかな?と笑みを零す。待っててね過去のダーリン、ツナ、でもって親愛なる並盛メンバー、ヴァリアー諸君。久しぶりの再会に涙が出そうだけど我慢できるかな。25分とたっぷりとは言えないけど時間はあるから。
そして視界は煙に包まれ、私は過去へと旅立った。
ハロー!だーりん
(過去のダーリン、)
(懐かしいわね)
--------------
前サイトから。
まだ続くんだよ、コラ。
20110517 杏里