これのヒロインちゃん。



「えっ?誕生日?」

ふくろうたちが小包を大広間に届けるよりも早く、それは幕を切っていた。銀河の中を駆け回ることも可能な夢の世界から覚醒すればエイプリルフールは始まるのだ。魔法界では完全にお祭り扱いになっているらしく授業のない生徒は急かすようにそのお祭りに興じていた。何故ならイギリスのエイプリルフールは午前中までだからだ。

私は談話室の暖炉の側でハリー、ハーマイオニー、ロンの三人とバタービール片手に談笑していた。周囲は勿論お祭り騒ぎである。あちらこちらでクラッカーが飛び交い、中から飛び出した小さな星屑達が談話室の天井で弾けて砂糖菓子に変わる。
流れ弾のように飛んできたそれを片手でキャッチしたり直接口に導いて話をしていると、お祭り騒ぎの中心にいる人物を見ながら突如ロンが驚愕を落とした。

「エッ?言ってなかったっけ?」

「聞いてないというか興味がなかったから聞き逃したかもしれない」

ロンが飛び込んできた砂糖菓子を口で受け取るのをハーマイオニーが冷めた目で見つめている。それを眺めながら私は頷いた。

「名前、あなた本当に知らなかったの?」

「意外だなぁ、名前は知ってると思ってたんだけど」

「…知らないよ、だって最近まで関わりなかったんだもの」

よほど想定外だったらしくハーマイオニーとハリーまで目を丸くさせていた。
内容はこうだった。今日、4月1日は世間でいうエイプリルフールなのだが、その一方でロンの双子の兄、フレッドとジョージの誕生日でもあったのだ。つまり毎年エイプリルフールで馬鹿騒ぎしていたのは彼等の誕生日でもあったことを私はつい先程まで知らなかったのだ。

「フレッドとジョージは自分の誕生日を言い忘れるはずがないんだよ、だってほら、自分から俺の誕生日はいつだぜっていうタイプじゃないか」

「まあ、確かにそうね」

「二人の事だからしつこく名前に聞かせてると思ってたんだけどなぁ」

「僕も、なんてったって兄貴たちのお気に入りだしな」

ロンがかぼちゃ頭のピクシーを見つけたみたいに笑うので口を尖らせながら反論してやった。

「馬鹿言わないで、お気に入りとかそういう生半可なもんじゃないわ。人を無理矢理悪戯に引っ張り回して。アンジェリーナが居なかったら今頃私は退学処分よ」

手元にあったバタービールをぐいっと飲み干しながら悪態を付けば三人は否定できないようで苦笑した。
すると、話題の人物たちが何も知らず颯爽と現れた。陽気に鼻歌を歌いながらやってきたフレッドとジョージは、頭に派手な帽子、グリフィンドールカラーのタオルを首にぶら下げてご機嫌の様子だった。

「あぁ名前、今日は何て素敵な日なんだ」

「そうさガリオン金貨を山積みにしたって叶わないくらい素敵な日だ」

「世間一般にはエイプリルフールだとかいって他人を騙して楽しんでる輩だらけだが、俺たちは違う」

「何故なら今日は俺たちの生まれた日だからだ」

ケラケラと笑いながら私の肩に縋る二人を鬱陶しく思い「そうですね」と曖昧に呟けば少しムッとした顔で覗き込んできた。
でもすぐいつものようなニヤニヤした笑みを浮かべた彼等は小さな子供をあやすように囁き始めた。

「どうしたんだいお嬢さん」

「何かあったのかいお嬢さん」

「私、お二人が誕生日なの今知ったんで何も用意してませんよ」

ハリーから「あっ」と息を呑むのが聞こえ、ハーマイオニーはどうにでもなれという表情で私を見ていた。ロンは「あっちゃー」と顔を顰めた。一体どうしたって言うんだ。
その違和感は私の肩に凭れていた二人にも現れていた。先程までの勢いが無くなっていたのだ。怪訝に思い、後ろを振り返れば拗ねたように口をへの字にしたフレッドとジョージが居た。

「おいおいエイプリルフールにしちゃあキツい冗談だぜ」

「そうだ、俺たちは名前をそんな風に育てた覚えはないぞ」

「いや育てられた覚えないんですけど…」

途端に肩をがっくりさせた二人は無言で肘掛け椅子の傍にしゃがみ込んだ。するとシェーマスが持っていたクラッカーが大爆発を起こして、しゃがみ込んでいた二人に案の定というか砂糖菓子がバラバラと降り注いだ。

「なんでそんなに落ち込んでるんですか」

「当たり前だ。俺たちの日を知らなかったって毎年何してたんだ一体」

「何してたって…図書館にいましたね。人が沢山居る場所は混み合って苦手でしたから」

「名前なら有り得そうに聞こえると言うことは本気で知らなかったみたいだぜジョージ」

「まったくだぜフレッド、俺たちはまんまとこのお嬢さんに一杯食わされたみたいだ」

「いや誕生日をお祝いできないのは謝りますけど知らなかったのは罪じゃないはず…」

尻すぼみになったのは罪悪感を感じたからだった。二人は相変わらず暗い表情だったので仕方なくローブのポケットを探った。するとカチン、と何かに指が触れて視界にクラッカーからではない星屑が弾けた。
これだ、と顔を上げる。珍しい物好きな二人ならきっと気に入ってくれるかもしれない。

「フレッドさん、ジョージさん、今はこれしか持ってないんで…」

「これは?」

「何だ?」

「星のブレスレットなんですけど、付けているとお互いの居場所を知りたい時に金属の星を爪で叩けば魔法の粒子が弾けて相手の場所まで案内してくれるんです。それは付けている本人達にしか見えないんで、後をつけられることもないから便利な道具ですよ。お二人なら有効に使えるんじゃないですか?」

ローブのポケットから二つのブレスレットを取り出して見せると二人は顎に手を当て、興味深げに見つめる。

「こりゃ随分と面白そうな代物じゃないか、どうしたんだこれ」

「ちょっと前に弟達のプレゼントに作ったんですけど二つしか作れなくって持て余してたんです。よかったら、どうぞ」

少し俯きながら渡せば嬉々としてフレッドが受け取り、何か思い出したように訊ねてきた。

「そう言えばこれ、名前も似てるの付けてるよな」

「え?えぇ、同じ魔法が掛けてありますから」

「じゃあ名前と俺たちもすぐに居場所が分かる訳だ」

ジョージがにっこりしたので「まあ、そうですね」と頷く。すると双子はすくっと立ち上がり再び私の肩に腕を回した。何故か先程より素晴らしい笑みを浮かべている。まるで子供みたいにはしゃぎ始めた二人は腕にブレスレットを通した。

「可愛い可愛い名前からプレゼントだ、俺は今なら箒なしで空を飛べそうだぜ」

「奇遇だな、俺もだぜ相棒」

お互い顔を見合わせてにっこりしたのが見えたかと思うと、二人の顔がぐんっと近付いてきて軽いリップ音が両頬でした。目が点になった私を一度見てニヤリとした彼等は残り時間少ない賑わいの中へまた躍り出ていく。
私の周りでは魔法ではない星が舞っているようだった。



双子、お誕生日おめでとう!
20110401 杏里


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