太陽は温かい光を降り注いでくれる。私は肩に掛けていた毛布がずれ落ちるのも構わず、空に咲く大輪の花に手を翳した。
明るい光に、私の手は赤を身に纏っていた。これは私たちの中に流れる温かい血潮。人を想い合い助けんとする志を持った人々に流れる生命の源。
「負けたりしないよ」
どんなに窮地に陥ろうと私たちの先祖たちは困難を潜り抜けてきた、だからこそ私はここにいる。その生命の記憶は、遺伝子、DNAという形として刻まれている。
隣にいた秋を見れば同じように大輪へ手を翳していた。目が合えばにっこりして、私は彼女の手を握る。
「また、円堂たちとサッカーしよう」
「うん」
「雷門のみんなとサッカーしよう」
「うん、」
「日本代表メンバーとも、エイリア学園とも、世宇子中も帝国もみんなと」
グラウンドは使い物にならなくなってしまった。校舎だって、エイリア学園の時みたいにグチャグチャで。だけど私たちの心はまだ折れちゃいなかった。
避難場所になっていた雷門中の近くで救助活動に勤しむ円堂の背中が見える。彼はまだ諦めていない、何も。
「皆さん!これ見て下さい!」
突然奥の情報を受け取るルームから出て来た春奈ちゃんが息を上げながら駆けてきた。驚いた私たちは隣にやってきた彼女に顔を向ける。
「どうしたの、春奈ちゃん?」
「アメリカ、チームユニコーン、イギリス、ナイツオブクィーン、その他沢山の国々から義援金や援助、応援メッセージが届いてます!」
「えっ」
「アフロディ君や南雲君、涼野君のチーム、韓国のファイアードラゴンからもです!」
その声に近くで活動していたみんなが顔を上げた。わっと春奈ちゃんの持っているノートパソコンに駆け寄る、向けられた画面には世界中のみんなと繋がっていた。今まで関わってきたみんなが、画面の向こうで声を上げている。
『play for Japan!』
国々から聞こえる声に、私たちは体の芯からほろりと何かが溢れ出した。アメリカの通信には、まだ入院中の筈の一ノ瀬の姿も。
秋はそれを見て嗚咽を漏らしながら泣いてしまった。他のみんなも、泣くのを我慢しながら画面を見つめている。中でも円堂はいつもみたいに拳を震わせて、唇を噛みしめていた。
「みんなぁ!俺たちは絶対に諦めねーぞ!絶対、絶対絶対絶対絶対に!」
感極まった円堂の叫びに、他のメンバーは頷いた。周りで休んでいた人々も話を聞きつけてやって来た。動ける人はみな、動けない人もみな、
「やっぱり、円堂は凄いや」
太陽は私たちの目の前にいた。
「円堂の通った場所に道が出来て、繋がってるんだ」
2011年3月11日、
世界が一つに繋がった日。
20110313 杏里