すっかり日が落ちたというのに、必要最低限の物しかないこの部屋には明かりがつくことはない。グシャグシャになった真っ白なシーツの上に裸体で転がる私は長く鬱陶しくなった前髪を掻き上げた。
昨日は散々好きにしたくせに夜が明けたらすぐ消えてしまったパートナー。食えない男ね、なんて笑うけど私以外誰もいないこの部屋では無駄に響くだけだった。
サイドテーブルにあった彼の煙草に手を伸ばしてブルーのライターで火を付ける。右手で口に近づけて目を伏せながらたっぷりと紫煙を吐いてやった。やめたはずの煙草が吸いたくなった、こう言うときは決まって下半身が疼くのだ。
煙草を持っている方の手を見やれば、綺麗に染まっていたはずのマニキュアが剥がれていた。

「爪立てたからかな」

昨夜、アイツの下で自分でも反吐が出そうなくらいの甲高い声を漏らしていた時、嫌味ったらしい笑みを見せてくるもんだから仕返しに背中へ爪を立ててやったのだ。
だけどアイツは少し表情を歪めただけで、すぐにいつものニヒルな笑みを浮かべて私を攻め立てた。
馬鹿ね、首筋にあるその痕に私が気付かないとでも思ったの。どこの女に付けられたんだか分かんない、それに。
だから私は他の女に見せつけてやるの、彼に抱かれた女も気付くはずだわ。自分が縋りつこうと手を伸ばした先には既に爪痕があるんだから。


「何だよ、起きてたのか」

リビングと寝室の入り口に彼は立っていた。提げていたコンビニ袋をテーブルに置くと、近くに上着を投げ捨てた。それもどこの女に貢がせたの?確かブランドだもの、百万はするじゃない。

「今起きたんだけど」

「昨日あれだけ喘げばそうなるよな」

またそうやって、私の嫌いな笑みを浮かべる。近付いてきた彼からキツい香水の匂いがした。思わず顔を顰めてしまう、だって明らかに女物の、香水。

「挑発してるの?」

「ハッ、どうだかな」

私が嫌がるの分かっててやるから質が悪い。なのに引き寄せられた肩が熱い、馬鹿みたい馬鹿みたい。下半身が疼くの、コイツを待っている自分が居るの、馬鹿みたい。

「触んないで」

引き剥がしたってもう遅い。彼の目はギラギラと獣の光を帯びていた。釣り上がった口角が私の首筋に吸い付いた。



「明王の、バカ」

苦し紛れに零した私の声に、彼はまた口角を釣り上げて言ったのだ。


「そのバカに惚れて腰振ってんのは誰だよ」


ええそうよ、ごもっともね。


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SPELL MAGIC/Acid Black Cherry

20110302 杏里






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