雪が降る。ほろほろと柔らかい感覚が頬に当たり、体温で溶けていく。無数の白雪が通り過ぎていき、山に降り積もる。北海道の雪は結晶までしっかりと見ることができる程、きめ細かい。
「綺麗でしょ」
「吹雪くん」
にこにこと話しかけてきた吹雪は私の隣に立った。キャラバンを迎え入れた彼は円堂たちを温かく迎え入れてくれた。彼に教わった雪の上のスポーツは慣れるまで時間が掛かったけど、とても楽しい。
「うん、とっても」
「よかった。雪は珍しいの?食いつくみたいに見つめてたけど」
「え、そんなに見つめてた?」
くすくす、面白そうに話す吹雪くんに私は照れてしまって思わず頭を掻いた。
「私の住んでる場所、雪が少ない所だからこんなに積もってるの初めてで、つい、ね」
「そっか、名前ちゃんは南国育ちだったんだっけ」
「うん、そうなの。北海道よりは断然あったかいよ、沖縄ほどじゃないけどね。」
「へえ…」
「だからこんなに雪があると凄く感動しちゃうんだ」
「吹雪くんは羨ましいな、こんなに綺麗な雪が苗字に入ってるだなんて」私が笑うと吹雪くんは目尻を下げて同じ様に笑った。ただ、その笑顔が複雑そうに見えたのは気のせいではなかったのだと思う。
「吹雪くんのご両親と弟は雪崩に巻き込まれて亡くなったの。運良く車から投げ出された吹雪くんだけ助かったそうよ」
入院してしまった吹雪くんは未だに眠ったままだ。いつも雪みたいにふわふわしてて周りのみんなを惹きつける彼の優しげな目は、閉ざされたまま。氷付けにされたみたいに動かない吹雪くんを見つめ私は下唇を噛んだ。
「吹雪くんは羨ましいな、こんなに綺麗な雪が苗字に入ってるだなんて」
両親を雪崩で亡くした彼に、私は知らぬ間に釘を打ち付けていたのかもしれない。雪崩で両親を亡くし、皮肉にも名前に雪と言う字を持ち、二重人格に悩み、こんなに小さな身体ですべてを受け止めていたなんて。
「ごめんね、吹雪くん」
知らないとは罪だ。無知とは、何より罪深い。誰もいなくなった病室で彼の額を撫でる。吹雪くんはやっぱり、冷たい。
20110217 杏里