教室から覗く空は少し曇っていて私は詰まらなさそうに息を吐いた。持ち前のくじ運で勝ち取った窓側の一番後ろの席は太陽が出ている時だけ最高に心地良い場所なのだが、如何せん授業で当てられることが多い。席の一番端っこは順繰りで当てる方式の時決まって当てられることが多いからだ。不意打ちで当てられようものなら何も準備していない私はすぐにお叱りを受けるだろう。

頬杖をついて外を眺めていると、何やら視線を感じだ。気になってそろりそろりと視線を戻すが途端に気配は消えてしまう。また窓の外へ視線を戻せば、やはり先程と同じで視線が突き刺さる。思い切って振り返ると、あからさまに反応が見えた。慌てて顔を背けたのだろう、不自然にたじろぐ背中。誰だかすぐに分かってしまった。



その席は、サッカー部の源田君の席だった。彼は未だに挙動不審で、机の上の筆箱を開けたり閉じたりしている。段々落ち着いてきたのか肩の力が抜けて息を吐いているのが分かった。チラ、と此方を向いた彼はまさか私がまだ見ているとは思っていなかったらしく先程とは比べ物にならないくらい肩を跳ね上がらせた。
完全に固まってしまった源田君に苦笑しながら首を傾げ、「なに?」と口パクをする。瞬間、源田君は目を見開いて頬を染め「何でもない!」と大きな声で叫んでしまった。今は授業中だ。当然先生が教卓の前でチョーク片手に教鞭を揮っているわけだ。咎められないはずがない。「源田君、どうしましたか」いつも真面目な彼を心配することにしたらしい先生は「顔が赤いですよ、熱かもしれないから保健室に行って休んだらどうですか」と薦めた。しかし源田君は「大丈夫です、すみません」と言って授業は再開されたのだった。


私は悪いことをしてしまったなと自分の手を見つめた。私が彼を動揺させなければこんな事にはならなかっただろうに。申し訳なくて謝ろうとしたけれど、私と源田君に接点なんてなかった。さて、どうしたものか。
カサリと紙が擦れる音がして顔を上げれば机の上には無造作に投げられた紙切れが転がっていた。
辺りを見回せば不自然に動く背中、あぁ、そうか。開いてみれば少し殴り書きの字で「すまなかった」と書かれていた。何度か見かけたことのある源田の字だった。私は筆箱からシャーペンを取り出して「こちらこそごめんね」と綴った。


ぽいっと大してよくもないコントロールで彼に投げつければ何かに気付いたのか後ろを向いた源田にキャッチされた。彼は少しはにかんで体を前に戻す。私はまた窓辺に目線をやった。

空は、雲が霧散して太陽が微笑ましそうに私たちの教室を照らしていた。



20110208 杏里

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