幸せなはずだった。あなたの隣にいることが何より幸せなはずだった。
初めてメールで想いを伝え、体は緊張でガチガチ。大好きな曲をあなたの着信音にして、まるで死刑台に立たされたみたいに切羽詰まった私が開いた携帯画面には、送った文字と同じ文字。
あんなに嬉しかったのに。
初めて手を繋いだ日、とっても寒くてこんな日に限って手袋を忘れた私の手を包み込んでくれた。そのまま彼のポケットに引き込まれた手は、家に着いた後も熱を帯びていた。
隣に居るだけで満足だったのに
初めてキスをした。お互いが初めてだからぎこちなくて、誰もいない教室で何回もした。目なんて開けてられなくて徐々に慣れていこうって彼は言った。だからちょっぴり薄目を開けてみたら、ばっちり開いていた彼と目が合った。至近距離過ぎて心臓がばくばくして、「開けちゃだめって言ったのに!」なんて言えば「仕方ないだろう、見たかったんだから」と返ってきた。それ、反則だって。
どんどん欲張りになっていく
また、部室でキスをした。一回、一回するのがやっとだったのにその日は放してもらえなかった。どんどん深くなっていって、息が続かなくて彼を押し返せば申し訳なさそうにする瞳と目が合った。「すまない、」なんて悲しそうな声は聞きたくなかったから「もう一回、しよ」言った後に顔が燃えるみたいに熱くなって、でも目の前の君は満面の笑み。最初は優しいキス、段々と激しくなって。結局巡回の先生が来るまで、ずっと。
頭の中はあなたでいっぱい
クラスが違ったから、授業がつまらなくて仕方なかった。早く会いたくて会いたくて、休憩時間になると佐久間と鬼道を連れてやってきた彼が、我慢できなくてうつ伏せになっている私の肩を優しく叩く。嬉しい。
エスカレートしていく、の。
初めて彼の家に行った。彼の部屋で沢山お話した。ベッドで二人で寝そべってお喋りをする。ぎゅーって抱き締められて、胸がいっぱいになって、慣れたキスを交わして可愛いリップ音が小さく響く。その後、彼は私の首筋に顔を埋めた。「いいのか、」って聞く彼の目は肉食獣みたいにギラギラだった。「だっ、だめ」絞り出した声に目を閉じた彼は眉根を顰めるといつもみたいに優しく笑った。
分かってる、我慢できないの。
首筋、胸、腹、太股、段々広がる行動範囲、聞いたことがないくらい甲高い私の声、荒々しい息だとか。でも、彼は私が首を振らない限りそれ以上はしなかった。でもある日、切羽詰まった彼の声がして「したい、」と伝えられた。「いいよ、」って返せば、少し戸惑ったように聞き返す彼から顔を逸らす。馬鹿、私だって、欲情くらいするわ。
溶けてしまいたかった、誰も邪魔できないくらい。
病みつきになった行為に時間を割いて、狂ったみたいに愛を貪って、貪欲な自分に嫌気がさすのに止まらなかった。大好き、それから愛してる。甘ったるい言葉を囁き合って周りからはバカップル扱い。幸せだった。
欲は止まることはなく。
本大会が近づくにつれ、彼と会う時間は無いに等しかった。サッカーに打ち込む彼を見ていたら会いたいなんていえなかった、言わなかった。
隙間が開いていく。
気付けば何ヶ月彼に触れてない?なんて考える自分は随分と女々しくなったもんだと思った。あんなに甘かった時間は取り戻せなくて、どんどん隙間が裂け始めた。
一年記念日、彼はチームメイトと先に約束があるとデートを断られた。
涙が止まらなかった。今まで会えない分を埋めたいと思って新しい服を買ったし、記念のケーキだって作ったのに。「ねぇ明日部活休みなんでしょ?久しぶりに…」言いかけた私の言葉を何の気なしに「鬼道達と約束があるんだ、すまない」と切られた。馬鹿、馬鹿!口を訊かなかったら困ったように訪ねられた。全部ぶちまけたら、「約束は守らないといけないだろう?」なんで、眉を顰めておかしなことを言うなって言いたげに笑うの。
「源田、別れよ」
言った後、彼は「は?」と言った。ふざけてると思ったのか、はにかみながら「笑えないぞ」って呟いた。「本気だもの、笑えないに決まってるじゃない」強く言い放ったら彼は酷く狼狽した。「嫌だ」とか「好きだ」とか。知らん顔して家まで逃げた。
後悔は、してる。
「好きです」
目の前で源田が告白を受けていた。私なんかよりずっと美人で可愛い子からだった。ショックを受ける私は一体どれほど矛盾しているのだろう。自分から振っておいて彼に愛する人が出来るのが嫌なのだ。そこで初めて気付かされるのだ。愚かにも程がある。
あぁ、そうか私、
「まだ源田が好きなんだ…」
別れを告げた日みたいに走り出せば視界が滲む。頬に流れる何かが酷く滑稽だった。
次の日、並んで帰る二人をみて自業自得だとまた涙した。
20110110 杏里