彼の髪はどこからどう見たって真っ赤だった。それこそ鮮血で染め上げたんじゃないかってくらい真っ赤なのに肌の色は病的に白い。美白ってわけじゃない、文字通りの意味で病気なんじゃないかってくらい白いのだ。
そしてこれまた面白いことに彼は自分を宇宙人だと言う。

基山ヒロトという存在は私の中でかなり変な位置に格付けされていた。

奇人変人カテゴリー。帝国から転校してきた鬼道だって出で立ちこそドレッドヘアーにゴーグル、マントで奇人感が漂っているけれど真面目な性格がそれをカバーし、ゴーグルは色素が薄いせいでウサギみたいに赤い瞳を光から守るために付けられているという立派な理由がある。だからこそ上手く柔和しているのだ。マントについてはノーコメントとさせて戴くが本人曰く「マントはセーフだ」らしい。何がセーフなのかは私にも分からない。


さて本題に戻ろうか。基山ヒロトという人物についてだ。エイリアネームはグラン、ジェネシスのキャプテンだった男。未だに彼の性格はよく分からない。表面に押し出した笑みのなんと自然なこと、誰も気付きはしないのだ。彼が如何に周りと歩調を合わせようとしているか、それを苦には感じて居ずとも息苦しさを感じている事とか。


だからこそ彼は私を必要とした。


好きだ、愛してると角砂糖より甘い求愛の言葉を囁いて唯一無二の愛情を与え、与えられることで自分に生じている誤差を修正しようとしているのだ。しかし私とて彼のように甘い女ではない。寧ろ例えるならブラックコーヒーだ。微糖でもない完全なるブラック。


「名前ちゃん、愛してるよ」

「軽々しく愛してるなんて言うな、安っぽい」

「酷いな、僕は本気なのに」


そう言って厭らしい手付きで私の肌を這うその指を切り落としてやろうかと脅せば、基山ヒロトは曇り無い笑みを浮かべるのだ。


「名前が望むなら喜んで」


馬鹿だ、こいつは馬鹿だ。愛のために己の一部を切り落とすことを承諾する奴なんて正気の沙汰じゃない。確か、基山ヒロトは孤児院で育ったと聞いた。エイリア学園の殆どの生徒が彼の出身、おひさま園だと。愛情不足で育ったせいで歪んだ愛を生んでしまっているんだきっと。


「馬鹿じゃないの」

「そうかもしれないな」


基山ヒロトは言う。


「名前の為なら何だってしてあげたいんだ、名前が愛してと懇願するなら僕は僕の全てで君を愛すよ」


おかしいかなぁ、と零す彼は酷く嬉しそうで「あぁ、でも」と私を見つめる瞳は真っ直ぐで。


「別れて、とかは駄目だよ。いくら優しい僕でもそれは受け入れられないな、名前が僕を愛している限り絶対隣に居るって決めたんだから」


優しく頭を撫でてくるヒロトを見つめ、私は思った。彼から与えられる真っ直ぐな愛情に屈折していたのは、歪んだ愛情を向けていたのは私だったのかもしれないと。
視界いっぱいにヒロトが映るそこにはエイリア学園のグランではなく日本代表の基山ヒロトでもない、ただ純真に愛を傾ける基山ヒロトが存在した。優しく触れた唇に生温かい温度が重なってぴちゃぴちゃと水音がする。あぁそうだ、愛した人間に欲情するのも歴とした人間の心理だったんだ。


彼はあまりにも本能に順応な愛情を持っていて、私はあまりにも本能から遠ざかった愛情を持っていた。





これを愛か異常か判断は貴方次第
20110105 杏里




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