白石がいつものドヤ顔を披露しつつ、私の目の前にプリントを見せつけてきた。そんなに近かったら何も見えないでしょうに。少し顔を後ろに引いて、文字を目で追った。


「合同合宿の御案内…?」

「せや、よう見てみ」



苗字ななしは男子テニス部のマネージャーをしている。中学に引き続き、マネージャーとして彼らを支えることを望んだのが一番の理由だった。

そんなある日のことだった。

白石に言われた通り、上から順に文字を追っていく。すると、開催地という項目で止まった。


日時 20XX年7月28日
開催地 立海大附属高校


「立海、立海って、あの立海?」

「感謝しいや?」

そう言っていつものドヤ顔を決めた白石に私は破顔してみせた。






今の四天宝寺高等学校は、三年生は一人しかいない。私たちが入部する前に数人居た部員たちが一気に辞めてしまったらしい。そこへ新入生として全国出場経験のある白石たちが入部し、開いてしまった穴を塞ぐように瞬く間に形成を立て直したのだ。

現在の部長は桐谷先輩。四天宝寺中出身で、何と、金ちゃんの従兄弟である。中学では二年の頃から部長を務めていた白石であるが、何も最初からそうだった訳じゃない。

元々は三年生だった桐谷先輩が部長だったのだ。しかし、家族が入院してしまい、部活にあまり参加できなくなってしまった桐谷先輩は自ら部長を辞退。後任に白石を推薦した。


「ん?別に名前ちゃんがおるからって合同合宿持ち掛けた訳やあらへんから、そんな気兼ねせんとき」

現在はまたテニスを始め、部長に登り詰めた。その性格は天真爛漫な金ちゃんに似ていて、笑顔が特によく似ている。

「せやけど俺、いっぺん目え瞑ったら朝まで起きんさかい、夜に抜け出されても分からへんかもなぁ」

そう、こんな感じに人がいいのだ。





「は?名前先輩に言わへんつもりなんですか?」

「うん。言わない」

マネージャー業をしつつ偶々見かけた財前に声をかけられた。謙也とのラリーを終えたらしい彼の首には先ほど配ったばかりの真っ白いタオルがぶら下がっている。

「お姉ちゃん、電話しても全然あっちの話してこないし、直接行って驚かせてやる」

「でも名前先輩帰宅部やろ」

「…そう、だった」


立海で行われる合宿だが帰宅部の名前が学校へ来ている可能性はごく僅かである。おまけに姉は立海での様子を語りたがらない。いや、面倒なだけでしつこく聞き続ければ口を割るのだけれど、お姉ちゃんは只今謎のベールに包まれている。

去年は二回、お正月とお盆にお母さんと帰ってきた。けどお姉ちゃんはコタツに転がりっぱなしで、千歳を足で押しやりながらミカンをむしゃむしゃして携帯いじってた。
意を決して「お姉ちゃん、学校どう?」と聞いたら「ん、楽しいよ」で、会話は終了。収穫はほぼ無いに等しかった。


あとは上手い具合にこちらの話を聞き出され、いや多分本人は無意識だと思うんだけど、核心に迫れず。こうなったら奥の手だと、お姉ちゃんに会いに来た自称無駄のない男、エクスタシー侍、白石にすべてを託したのだけど。

「そおいや、名前彼氏出来たんか」

「彼氏………と言えば御津角くんたちまだ付き合ってる?」

それに上手く乗せられた謙也がベラベラ話して終わってしまった。そのあと謙也がフルボッコだったのは言うまでもない。





「立海っちゅーたら、厄介な奴らばっかですやん」

「え?何が?」

「テニス部に決まってますやろ。先輩らの学年質悪い奴らばっかやし。詐欺師やら参謀やら皇帝やら神の子やら。まあ名前先輩面倒なん嫌いやし、関わり持たなさそうっすけど。唯一興味引きそうなテニスも立海はマネ雇ってへんし。そないなことも分からんのんですか、アホらし」


財前の毒舌口調は相変わらず変わらない。お姉ちゃんの前では比較的いい子の癖に!ガックリと項垂れる私に「アホっすね」と再三毒づかれた。じゃあせめて、向こうに着いたら家に行って驚かせてやる。


「財前だってガックリした癖に」

「…そーゆうのウザイっすわ」

「ち、ちとー、財前が!」

「よしよし、大丈夫だけん。光もほどほどにしなっせ。女の子泣かせたらいかんばい」

「…まー、しゃーないっすわ。今回は俺の負けにしときます」


財前は何だかダルそうに呟いて、元気の有り余った様子の謙也の待つコートへ戻っていった。その背中を見つめつつ首を傾げると千歳が困ったように笑った。





「ああそうだ。ちと、合宿のプリント見た?」

「合宿?」

「立海との合同合宿だよ、ほら」

「あー、白石がくれたような気がするばい」

そう言いつつ千歳は自分のジャージのポケットに手を突っ込んだ。すると、案の定というか、ぐしゃぐしゃになったプリントが現れた。

「これ?」

「それ!」

ぐしゃぐしゃなプリントを広げて目で読み終わった千歳は成程、とまた苦笑した。

「名前に会いに行くと?」

「うん、桐谷部長が目瞑ってくれるみたい」

「ほなこつ?名前、たいがたまがるばい」



千歳はそう言って私の頭を優しく撫でた。今年の夏休みは、特別な夏が始まる予感。



20111204 杏里


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