新幹線とバスを乗り継いでやって来た神奈川県。てっきり自宅でガリガリ君を口にくわえて冷房のきいた部屋でFFをしてると思っていた双子の姉、名前が、炎天下の元、立海の指定ジャージに身を包んでいました。

私の双子の姉は、少々喧嘩っ早い性格だけど常識人だった。ようは根っからの姉御肌。その反面、面倒事は手を着ける前から放置するタイプ。だから立海に進学した姉の私生活は本人から語られることはまずなかった。
それがまさか、立海男子テニス部と関わりを持っているなんて!
名前のことだから謙也や私たちが騒ぎ立てるのが嫌だったんだろうなあ。お姉ちゃん面倒事嫌いだし。いや、正しくは興味のないことに対して極端に冷めているんだけど。




姉が四天宝寺でテニス部のマネージャーをやっていたのは私の勧めでもあった。小さい頃から転校続きで、そう言ったクラブや部活動に入ったことがなかったお姉ちゃんと、一緒に何かをしたかったのもある。
四天宝寺に来たばかりのお姉ちゃんは、家族の前と外では全く違った。近付いてくる人たちを、まるでプラスチックの板を四方に固めて、ある程度の距離までしか立ち入れようとはさせなかったのだ。
お姉ちゃんは決して人見知りではない。話し掛けられればちゃんと返答するし、気遣いだって出来る。けれど、自分の許容範囲以外はやんわりと侵入を拒んでいた。



そんなお姉ちゃんに変化をもたらしたのは、この大阪という気質だろうか。距離を置こうとするお姉ちゃんにお構いなしに近付いて、親身になって。特にうちの学校はそんな子ばかりで、代表が白石や謙也、金ちゃんだ。
次第にバリケードを解いていったお姉ちゃんに、周囲は更に懐いた。何せ、元の気質がああなのだから好かれないはずがない。





最後に会ったのはお正月だ。久しぶりに会ったお姉ちゃんは相変わらずで、いつものように私たちを呆れた目で見ていた。それは拒絶とかそういうのじゃなくて、ちゃーんと愛情が籠められてることくらい、私たちは知ってる。けれど私の機嫌はイマイチだった。後輩マネージャーたちと作った麦茶を四天宝寺メンバーに配りつつ、チラリと立海側を見つめた。

立海にはマネージャーが居らず、今回のことを考慮してお姉ちゃんが臨時で手伝いをしているらしい。それにしては部員とのコミュニケーションも出来ていて、何よりあの立海のマネージャーに勧誘されるということは、何かしらの縁があるに違いないのだ。
白石たちが驚くのは無理もなかった。お姉ちゃんは気前はいいが、断るところはきっぱりと断ることの出来る人だ。それが立海の臨時マネージャーをしているとなれば本人が承諾したと言うことになる。

たった三年間、それでも色濃い時間を過ごしてきた彼等にとって、一年と少しで立海に打ち解けてしまったお姉ちゃん。立海のテニス部に少々嫉妬をしたのは私だけじゃないはずだ。仲のいい友人が他の人と仲良くなっていくのを黙って見過ごすしかないのに、少し似ているかもしれない。そう考えると財前は相当焦ってるんじゃないかと思った。



水分補給を終えた選手にタオルを手渡すと、お姉ちゃんに銀髪の男が近付いていくのが見えた。ひょろっと身長が高く、細くて目つきが悪い、口元に黒子のある男。中学の時から何度か見かけていた顔だ。でも名前が思い出せない。神奈川と大阪では完全に区が違うから随分見かけていなかったし。
しかし、何やら不満そうな顔をしてお姉ちゃんを見つめている。


「ねえねえ謙也」

「おん、どないしたん?」

「あの銀髪、誰だったっけ」

麦茶を受け取った謙也に耳打ちすると、手に取ったそれを流し込みながら私の目線を追った。

「仁王くんやん、それがどないしたっちゅーねん」

ああ、思い出した。立海とは中学の時から色々因縁があったけど、確かダブルスで有名なコート上の詐欺師、仁王くんだ。仁王くんと言えば、レーザービームを打つことで有名な柳生くんも印象的だけど。二人のダブルスは全国トップクラスだしテニスの勉強をしていた頃は雑誌でよく見かけていた。
彼等をテニスをやってる者で知らない人は少ない。ましてや三強を知らないなんて、潜りだ。立海は全国制覇常連校だから雑誌の取材はよくあることで、全国レベルで認知度は高い。うちの白石だって取材を受けていたけれど。

「仁王くん、お姉ちゃんになんか言ってる」

「はぁ?お前、そないな事気にしとったんかい!きっしょいで!」


シスコンで何が悪い。私はお姉ちゃんが心配なだけだ。家族の心配をして何が悪い。「別にいいんだよ、謙也だけ食事抜きでも」そういう意味を込めて睨みつけると謙也は押し黙った。
と、何やらお姉ちゃんが呟いた言葉に仁王さんが固まった。固まると言うより、ショックを受けたような顔付きになった。お姉ちゃんは相変わらずの表情だったけど。

すると糸目の人が近付いてきて、ああ、あの人は知ってる。私たちの代の立海三強と呼ばれたうちの一人、柳くんだ。その柳くんがお姉ちゃんの背後から語りかける。ビクリ、名前が跳ねて怪訝な顔をする。すると次の瞬間、固まっていた仁王くんが、むすっとした顔に変わり、お姉ちゃんの肩に抱きついた。そして、顔を埋めてグリグリと擦り始めたではないか。
私が手に持っていた空のヤカンを地面に落とし、隣にいた謙也が盛大に麦茶を噴き出し、また、偶々通りかかった財前がラケットを取り落としたのは言うまでもない。



20111228 杏里


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