「金ちゃーん、起きてー」

馴染みのある新大阪から新幹線で神奈川までやって来た。公共の乗り物だし流石に騒ぎはしなかったものの、用意されていたバスの中はお祭り騒ぎだった。
何故なら、まだ中学三年生の金ちゃんがこの合宿に参加しているからだ。名目は簡単。スポーツ推薦を狙っているらしいけど受験の息抜きと、早くからうちの部に慣れておくというもの。

あの金ちゃんが受験生、なんて考え物だが彼はここ数年でぐんぐん身長が伸びた。久しぶりに見かけたときは財前といい勝負だったし、未だに毒手を怖がる金ちゃんだけど、精神的に大人びたような気がする。


けれど久々にかつてのチームメイトと共に戦えるともあり、テンションMAXな金ちゃんはバスの中で謙也や白石、巻き込まれた財前、それを見つめる千歳、新たに知り合った先輩たちと、わいわいがやがや、どんちゃん騒ぎ。
傍で見つめていた私に顧問のみーちゃんこと三村先生と桐谷部長が持参していたらしいお菓子をくれた。
三人でむしゃむしゃしていると、不意にみーちゃんが口を開いた。


「しっかし、ほんま騒がしいやっちゃ。中坊と変わり映えせえへん奴らばっかやな」

「うちの従兄弟のせいですわ、すんません」

「はは、ええねんええねん。こんくらいうっといほーが、なんや合宿らしゅうてええやんか」

「確かに、みんな楽しそうですもんね」


みーちゃんが芋けんぴを口に放り込んで、私と部長も袋に手を伸ばした。








ようやく立海に着いたというのに未だバスの中で眠りこけたままの金ちゃんを揺する。ようやく、うっすら目を開けた彼に「ついたよ、ほら早く降りて」と催促した。
まだうとうとする金ちゃんに困っていると、見かねた千歳がおんぶをした。


「おお、金ちゃんたいがおっきくなったばい」

「んー、千歳みたいにデカなりたいわー。やったら、もっとつよなれるやん?」

「金ちゃんは十分つよかよ、安心せんね」

まるで親子みたいな会話に微笑みながら、先にテニスコートへ向かった部員たちを追って立海へ足を踏み入れた。



立海大附属高校は様々な面に特化した学校だと聞いた。特に、建築・デザインなどの学科もあり、普通の授業を受けながら自分に必要な科目を選択できる、まさに先進的な学校だ。

姉の名前がここを選んだ理由を、私は知らない。聞く機会なんて幾らだってあったのに。


「あれ、桐谷部長だ」

「ほんまや、きー兄何しとんねん」

千歳におんぶされていた金ちゃんがひょっこりと顔を上げた。どうやら目を覚ましたらしい。千歳にお礼を言って背中から降りると、フラフラしている部長を支えるべく駆け寄っていった。


「きっと車酔いたい。水飲みなっせ」

そこへ千歳が自分の持っていた、いろはすを手渡した。

「おー、千歳おおきに。こんなことなら酔い止め飲むんやったわ…」

真っ青な部長は力なく笑って、先に行った白石達に合流すべく私たちと歩き始めた。暫く歩いているとテニスコートが見えてきた。そして、見慣れた四天宝寺のジャージ集団がいる。ああ、ようやく合流出来る。

しかし彼等が動く様子がない。違和感はすぐに伝わった。まるで凍ったように動かないではないか。不審に思っていると金ちゃんが「わい、見てくる!」と駆けていってしまった。
けれど金ちゃんが合流した途端、浪速のリアクション軍団が張り裂けんばかりの声を上げて驚愕の叫びをあげた。


「うっさ!つか、な、何しとんねん!!あいつら!!」

「ここ神奈川なんだから、あんなベタなリアクション通じないよ…」

「ななし、突っ込む場所違うてるで」


そうこう言ってる間にも謙也の声が一際響いて、白石の驚愕した声が重なった。金ちゃんは何だか嬉しそうだ。財前は無言で目を見開いているし、他の部員は混乱しているようだけど。
ついに桐谷部長は慌てたように部員達の所まで駆けていった。



「ちょお、お前等何しとん…ええええええええええええええええ」


お前もか!


ミイラ取りがミイラになったと言うがまさにそれで、私は千歳と顔を見合わせた。千歳も首を傾げているし、状況が理解できていないようだ。
仕方なく小走りになって、白石達のいる所まで向かった。未だ呆然と立ち尽くす彼等に駆け寄った。


「部長までどうしたんです、一体」

地面に何故か崩れ落ちている部長を見やって、それから白石たちを見つめた。困ったように声を上げれば、同じように状況を理解できていない様子だった立海側にざわめきが起こった。え、ええええ、何!


「てか謙也なんで今出してるの?白石に至ってはもう装着してるし…」

荷物持ちだった謙也の足元や腕には今日名前の家に行ったときに使うはずのサプライズグッズが散乱している。そして白石に至ってはハートマークのサングラスを装着しているではないか。金ちゃんは何故か飛び跳ねてるし、いや本当に一体、何があったの。

その疑問を読み取ったのか白石たちは無言で前を指さした。

「え、何?」

「ななし、前見なっせ」

いつの間にか隣にやって来た千歳がそう言って私の頭を前に向ける。



「相変わらず騒がしい集団だね、まったく」

呆れ顔の自分が、立海ジャージを着て此方を見つめている。そう、それは私の片割れ、苗字名前であった。



20111207 杏里


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