黒い隊服に身を包んだ少女の足元から伸びる影が一度だけ揺らめいた。それを皮切りに、首をもたげるかのように地面から浮かび上がった薄い黒。

やがてそれは四本に裂け、影はまた更に形を持ちはじめる。浮き上がっては裂け、浮き上がっては裂けの繰り返し。遂に無数の蔓のようになったそれは意志を持つ蛇のように不気味に蠢いた。
敵対マフィアたちは冷静さを失い、絶叫しながら銃口を向ける。逃走を図る者、戦意を喪失し崩れ落ちる者。たった一人の少女に恐れをなして逃げまどっていた。



カツン、と黒靴のブーツが煉瓦の地面を蹴り、無機質な音が辺りに響いた。切り揃えられた艶やかな黒髪に瞬きをする度に揺れる長い睫毛。顔立ちはジャッポネーゼらしく、赤く色づいている唇が印象的だった。

ただそれだけの、背後に蠢く影を従えている以外何の変哲もない少女。この場にいなければ、一般人と変わらない平凡な少女。
しかし彼等は知っていたのだ。まことしやかに囁かれている噂で、これから何が起きるのか。現実味を帯び始めた、自分の未来を。




「Epurazione.(粛清を)」

少女が呟いた瞬間、彼女の背後で蛇行していた影たちが一斉に先端を鋭くさせた。刃を得た無数の切っ先は、さながら鞭のようにしなりながら四方八方へと飛びかっていく。
辺り一面が烏合の集と化し黒に埋め尽くされると断末魔や生々しい断絶音はすべて影に呑まれたのだった。


既に息を引き取った者達の死体が原形を留めない姿で散乱している。びちゃり、黒靴のブーツが血溜まりに触れた。誰の体液かも分からない錆びた鉄の臭いが少女の鼻孔を刺激する。
すると、近くにあった頭蓋を踏み潰した。飛び散った物体はべったりと彼女の黒靴に付着する。苛立ちを隠せない様子で足早にその場を後にした少女は黒塗りの車に乗り込んだ。運転手がエンジンをかける。窓の外はまだ明るく、夕日が滲んでいた。



20110616 杏里





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